ゴシック篇だった『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』に続いて、アンソロジー素敵かわいい篇。とにかくかわいければ問題なし、とでも言うかのように、編者による「はじめに」にも「少しつけ加え」にも解説めいたものは一切なく、ほとんど「かわいい」し…
「肥満翼賛クラブ」ジョン・アンソニー・ウェスト/宮脇孝雄訳(Glady's Gregory,John Anthony West,1963)★★★☆☆ ――グラディスのグレゴリーは結婚して丸三年になるのに、体重はほとんど変わっていませんでした。グラディスを責めないでください。フットボ…
「突堤にて」梅崎春生(1954)★★★★★ ――僕は毎日その防波堤に魚釣に通っていた。常連たちは薄情というわけではない。だが彼らの交際はいわば触手のようなもので、物がふれるとハッと引っこめてしまう。殴り合いを見たのは一度だけだ。当事者の一人は『日の丸…
変愛小説集日本編――ですが、既存作品のアンソロジーではなく、書き下ろしなんですね……。文庫版には木下古栗の作品が収録されていません。 「形見」川上弘美 ★★★★★ ――夫は今までに三回結婚している。わたしは二回。今までゆうに五十人は子供を育てたろうか。…
「木の都」織田作之助(1944)★★★☆☆ ――故郷に戻ってみると、善書堂という本屋はなくなり、代わりに矢野名曲堂というレコード店があった。見れば学生街の洋食屋の主人だった。懐かしい話をしているうちに、只今とランドセルを背負った少年が入って来た。半年…
岩波少年文庫のホラー・アンソロジー、フランス篇。「青ひげ」シャルル・ペロー(La Barbe bleue,Charles Perrault,1697)★★★☆☆ ――昔々あるところに、大金持ちの男がいた。男のひげは不気味な青色をしていたため、女たちは逃げ出さずにいられなかった。そ…
「第三巻まえがき」荒俣宏 ――今は忘れられた「愚作」も、当時は「時流に迎合した成功作」だった場合があるのだ。たとえば一〇〇年前には、そうした発掘で陽の目を見たのがレ・ファニュである。レ・ファニュほどの宝はもう望めないかもしれないが、まずは掘り…
「猫町」萩原朔太郎(1935) 「一の酉」武田鱗太郎(1935)★★★★★ ――おきよが、ちょっと、しげちゃん、あとで話があるんだけど、と云った。「なにさ」生まれつき言葉遣いの悪いおしげはぶっきら棒に云った。「――あんた、この頃、いやにめかすのねえ。無理ない…
『晴れた日は謎を追って』に続き、『蝦蟇倉市事件2』の文庫化です。 「さくら炎上」北山猛邦 ★★★☆☆ ――桜の下に陽子を見つけた。驚かせようとこっそり近づいたとき、駆け寄ってくる男に気づいた。私と陽子が通う蝦蟇倉大学付属高校の生徒だ。二人はどんな関…
架空の町「蝦蟇倉市」を舞台にした競作集『蝦蟇倉市事件1』の文庫化。 「弓投げの崖を見てはいけない」道尾秀介 ★★★★☆ ――弓投げの崖には自殺者たちの霊が集まっている。自宅のゆかり荘に帰る途中の安見邦夫は、突然ハンドルを切った前方車両を避けきれなか…
「島守」中勘助(1924)★★★☆☆ ――島にひとりいれば心ゆくばかり静かである。福岡の妹が危篤という電報がきた。昼飯の支度をするのも懶い。ぼんやり寐ころんでいる。朝目をさますと同時に妹を思った。きょうの悲しい最初の思い出である。□□子はまだ生きている…
「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ/中村融訳(Hunter, Come Home,Richard Mackenna,1963)★★★★☆ ――この惑星じゃ木は死にやしない。だから薪で火を熾すことができない。恐獣グレート・ラッセルを殺した者だけが、成人男子と見なされた。だが人口…
「第二巻まえがき 二〇世紀怪奇スクール――夢魔の花咲きほこる」荒俣宏 ★★★★★ ――そもそも、いったいだれが怪奇小説という大山脈に登ってみようと言いだしたのか。ラフカディオ・ハーンである。ところで、この「怪奇小説」なる用語はいつからこのジャンルの呼…
「父親」荒畑寒村(1915)★★★☆☆ ――久しく満州を放浪して居た孝次は、帰って来たと思ったら、一室に閉じ籠ったまま翌日から口もきかなかった。そんな孝次が結婚している長野へと、父親は向かっていた。何でも社会主義の新聞を出すのに、田舎の方が保証金が安…
「本と謎の日々」有栖川有栖 ★★★☆☆ ――店長は「読書なんかしないよ」と言いながら、本の知識もすごく広い。接客業のくせに明るい笑顔を作れない人だが、推理力は鋭い。「本が傷んでいた方がいい」というお客さんや、同じ本を二冊買って返品するときに「気をつ…
「まえがき」荒俣宏 平井呈一の思い出と、氏の海外怪奇文学の受容、本書の編纂意図、海外雑誌に見る怪奇小説の歴史、その日本受容史。 第I部 ドイツロマン派の大いなる影響:亡霊の騎士と妖怪の花嫁「レノーレ」ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー/南…
作家による「リクエスト!」シリーズ第二弾。「ババアと駄犬と私」森奈津子 ★★★☆☆ ――篤江ちゃんと呼ばれる近所の老婆は、行動が現代社会向けに洗練されていない「田舎者」である。犬は庭を横断するワイヤーの端から端まで移動することができるので、それを理…
和菓子小説が少ない現状を嘆く(?)『和菓子のアン』の作者発案による書き下ろしアンソロジーの文庫化。 「空の春告鳥」坂木司 ★★☆☆☆ ――駅弁目当ての母に連れられデパートを訪れたアンちゃんは、やはり和菓子が気になりのぞいてみると。店員に向かって「い…
「源氏の君の最後の恋」マルグリット・ユルスナール/多田智満子訳(Le Dernier amour du prince Genghi,Marguerite Yourcenar,1938)★★★★☆ ――紫の上に先立たれ、五十路にさしかかった源氏の君は、間もなく視力が衰えてくるのに気づいた。昔の恋人が、追憶…
名短篇シリーズ第6弾。第一部「青い手紙」アルバート・ペイスン・ターヒューン/各務三郎訳(The Blue Paper,Albert Payson Terhune,1941)★★★★☆ ――腕ききのアメリカ青年ジョン・セーンは、社用でフランスに出張することになった。ある女性がバッグから青…
名短篇シリーズ第三期・五冊目です。第一部「類人猿(抄)」「しこまれた動物(抄)」(『動物のぞき』より)幸田文 ★★★☆☆ ――これは、歩きつきまでがゴリラに似てきたと云われて、そうかなと頷いているほど、ゴリラを手がけ馴れてきた人の話である。ある日、…
書籍初収録を多数収録。「緑の果て」手塚治虫(1963)★★★☆☆ ――最終戦争によって全滅した地球から、からくも逃げのびたわれわれは、密雲の下にある草ばかりの星に着陸した。 なぜ擬態するのか――?という謎に対する解答が、極めて合理的で、単なる「奇想」では…
SFマガジン700号記念のアンソロジー海外篇。著者短篇集に未収録の作品(単行本未収録作品も含む)が選ばれています。敢えて超有名作家のものばかり選んだという方針が残念。 「遭難者」アーサー・C・クラーク/小隅黎訳(Castaway,Arthur C. Clarke,194…
700号記念のアンソロジー国内篇。海外篇とは違い、単行本未収録のみで構成されているわけではありません。――が、縛りがゆるいにもかかわらず、日本作家の方が作風の幅が狭いと感じました。 「寒中水泳」結城昌治(1959)★★★☆☆ ――溺れ死んだミノルは自殺で…
『ミステリマガジン』700号を記念して編まれたアンソロジー海外篇。過去に『ミステリマガジン』に掲載された作品のなかから選んだもの。すべて単行本未収録作。 バラエティに富んでいてそこが魅力ではあるものの、出来から言えばB級集でした。 「決定的…
高原英理による「リテラリーゴシック」作品選。「リテラリーゴシック」については編者による宣言を読んでいただくとして、新たな試みの提示ということで、単なる傑作選というよりはゴスな特徴を捉えた作品集という趣もあります。 「リテラリーゴシック宣言」…
書物がテーマのアンソロジー、日本篇。「悪魔祈祷書」夢野久作(1936)★★★★☆ ――いらっしゃいまし。雨で御座いますナア……古本屋なんてところにはタチの悪いお客もずいぶん御座いますよ。この間コンナ本がありましたよ……創世記のブッ付けだけは本物の聖書です…
タイトルに「事典」と銘打たれているものの、読んで楽しい作品でした。「読み物としても」というレベルではなく、読み物そのもの。 第一部の「古典ガイダンス」などは完全に編年体の書評集・エッセイ集となっています。第二部「作家クロニクル」とも合わせて…
アンソロジー『厭な物語』の続編。個人的にはいわゆる「イヤミス」にはまったく興味がないのだけれど、アンソロジー好きなので購入。未読のものだけ読みました。「『夢十夜』より 第三夜」夏目漱石(1908)「私の仕事を邪魔する隣人たちに関する報告書」エド…
「望遠鏡」ダニーラ・ダヴィドフ/秋草俊一郎訳(Телескоп,Danila Davydov,2012)★★★★☆ ――イペリマンはついていた。爆発はバスの乗客を鏖しにした。ひとり、彼をのぞいて。爆発で目が見えなかったが、行けるところまで行かなくては。鶏の鳴き声が聞こえて…