『榲桲(マルメロ)に目鼻のつく話』泉鏡花/中川学(河出書房新社)★★★★☆

『榲桲(マルメロ)に目鼻のつく話』泉鏡花/中川学(河出書房新社) 中川学による泉鏡花絵本シリーズ第4段。 泉鏡花のあの独特のリズムの文体ではなく、語り手の知り合いの中尉・乾三が子どもの頃に体験したという話が、ごく普通の平易な文章で綴られてい…

『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』ジェフリー・フォード/谷垣暁美編訳(東京創元社)★★★★☆

『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』ジェフリー・フォード/谷垣暁美編訳(東京創元社) 世界幻想文学大賞ほか各賞を受賞しているジェフリー・フォードの日本オリジナル編短篇集。編訳者もあとがきで書いていますが、久しぶりの邦訳作品です。「創…

『幻想と怪奇』8【魔女の祝祭 魔法と魔術の物語】

「A Map of Nowhere 07:「若いグッドマン・ブラウン」のセイラム」藤原ヨウコウ「〈幻想と怪奇〉アートギャラリー 魔女の伝承とイメージ」 ――「若いグッドマン・ブラウン」ナサニエル・ホーソーン/植草昌実訳(Young Goodman Brown,Nathaniel Hawthorne,1…

『まほり』高田大介(角川書店)★★★★☆

異世界が舞台の『図書館の魔女』とは違い、現代日本が舞台の民俗学ホラーミステリでした。 淳は妹の喘息のため田舎の祖母宅に引っ越していた。山奥で着物姿の少女を見かけ、強い印象を受ける。祖母に言わせると、その少女は「馬鹿」だという。障害のある少女…

『屍人荘の殺人』今村昌弘(創元推理文庫)★★★★☆

『Murders at the House of Death』2017年。 各種ベスト10で四冠を達成したという、驚異のデビュー作です。第27回鮎川哲也賞受賞。 まずは映画研究部の合宿に届けられた脅迫状という、古式ゆかしい舞台が用意されていました。語り手・葉村の先輩である明智…

『ずうのめ人形』澤村伊智(角川ホラー文庫)★★★★★

2016年初刊。 『ぼぎわんが、来る』に続く、比嘉姉妹もの第二作です。 本書は『リング』を意識したものになっており、『リング』が映画化されて貞子が市民権を得ている、現実と変わらない世界が舞台になっていました。 オカルト雑誌のライター湯水が目を抉ら…

『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ/米川良夫訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚)★★★★★

『不在の騎士』イタロ・カルヴィーノ/米川良夫訳(白水Uブックス 海外小説永遠の本棚) 『Il cavaliere inesistente』Italo Calvino,1959年。 鎧のなかに肉体は存在せず意思の力によって存在している――という観念的な設定からは思いも寄らないユーモア小…

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー/黒原敏行訳(ハヤカワepi文庫)★★★★★

『ザ・ロード』コーマック・マッカーシー/黒原敏行訳(ハヤカワepi文庫) 『The Road』Cormac McCarthy,2006年。 荒廃した世界で旅を続けながら生きてゆく父と息子の物語です。 いわゆる終末ものの多くで描かれるのが、変容してしまった世界であったりサバ…

『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 霊』東雅夫編/金井田英津子絵(汐文社)★★★☆☆

『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 霊』東雅夫編/金井田英津子絵(汐文社)「あれ」星新一(1975)★★★★☆ ――あるホテルの一室で、出張中の男が眠っていた。静かな真夜中。男はふと寒気を感じて目をさました。そばに人のけはいを感じる。一メートルほどはな…

『図書館の魔女 烏の伝言(上・下)』高田大介(講談社文庫)★★★★★

『図書館の魔女 烏の伝言《つてこと》(上・下)』高田大介(講談社文庫)★★★★★ 『図書館の魔女』の続編は、マツリカもキリヒトも出てこない場面からスタートします。前作での混乱によりニザマ国の一姫君と近衛兵たちが山の民・剛力の力を借りて亡命行の真っ…

『幻想と怪奇』7【ウィアード・テールズ 恐怖と冒険の王国】

『幻想と怪奇』7【ウィアード・テールズ 恐怖と冒険の王国】「『ウィアード・テールズ』――ある雑誌の歴史と、表紙画家たちの横顔」 パルプ雑誌のカバーワークの良さはよくわかりません。 「パルプ・ホラーが映しだすもの」牧原勝志 「レッドフック街怪事件…

『ピクニック・アット・ハンギングロック』ジョーン・リンジー/井上里訳(創元推理文庫)★★★★★

『ピクニック・アット・ハンギングロック』ジョーン・リンジー/井上里訳(創元推理文庫) 『Picnic At Hanging Rock』Joan Lindsay,1967年。 カルト的人気の名作映画の原作、初の邦訳ということですが、映画自体が1975年作で本邦公開が1986年とかなり昔の…

『まどのそと』佐野史郎作/ハダタカヒト絵/東雅夫編(岩崎書店 怪談えほん)★★★★☆

『まどのそと』佐野史郎作/ハダタカヒト絵/東雅夫編(岩崎書店 怪談えほん) 怪談えほん第三期、第一回配本。 かたかたかた……まどがかたかたなっている。かぜがふいているのかな。かーてんあけてみたけれど、そとの葉はゆれていない。「もうおねむのじかん…

『色町のはなし 両国妖恋草紙』長島槇子(メディアファクトリー)★★★★☆

『色町のはなし 両国妖恋草紙』長島槇子(メディアファクトリー) 2010年刊。『遊郭のはなし』に続く『幽』怪談文学賞受賞第一作ですが、前作とは段違いに面白くなっています。 恐らく前作は「遊廓に伝わる」「怪談」の「聞き語り」の「連作集」という形式に…

『遊郭《さと》のはなし』長島槇子(メディアファクトリー)★★☆☆☆

『遊郭《さと》のはなし』長島槇子(メディアファクトリー) 2008年刊。第2回『幽』怪談文学賞長編部門特別賞受賞作。 長篇とはいえ実質的には掌篇のつらなりで、読売屋が遊廓「百燈楼」の元女中から聞いた赤い櫛の怪異を皮切りに、「百燈楼」のその後を知…

『幻想と怪奇』6【夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館】(新紀元社)

『幻想と怪奇』6【夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館】(新紀元社)〈幻想と怪奇〉アートギャラリー ヨハン・ハインリヒ・フュースリー」 『夢魔』のヴァリアントなど。 「A Map of Nowhere 06:「詩と神々」のパルナッソス山」藤原ヨウコウ「詩と神々」H・…

『地球最後の男』リチャード・マシスン/田中小実昌訳(ハヤカワ文庫NV)★★★★☆

『地球最後の男』リチャード・マシスン/田中小実昌訳(ハヤカワ文庫NV) 『I Am Legend』Richard Matheson,1954年。 自分以外の全人類が吸血鬼と化してしまった世界で、絶望と戦いに明け暮れる男の日々を描いた古典的名作です。今は数年前の映画化に合わせ…

『忘れられた花園』(下)ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫)★★★★☆

『忘れられた花園』(下)ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫) 『The Forgotten Garden』Kate Morton,2008年。 デュ・モーリアの名前が出されているのは、せいぜいのところゴシック・ロマンス風なところがあるからだと思っていましたが、下巻はし…

『忘れられた花園』(上)ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫)★★★★★

『忘れられた花園』(上)ケイト・モートン/青木純子訳(創元推理文庫) 『The Forgotten Garden』Kate Morton,2008年。 オーストラリア、ブリスベン。二十一歳になり結婚を間近に控えたネルは、父親のヒューから衝撃的な事実を知らされます。白いトランク…

『宰相の象の物語』イヴォ・アンドリッチ/栗原成郎訳(松籟社 東欧の想像力14)★★★★☆

『宰相の象の物語』イヴォ・アンドリッチ/栗原成郎訳(松籟社 東欧の想像力14) ボスニア出身のノーベル賞作家による中短篇集。イスラム圏内のボスニアでカトリック教徒でありドイツ大使としてナチス政権を目の当たりにしたという著者の来歴や、あるいはボ…

『紫の雲』M・P・シール/南條竹則訳(アトリエサード/書苑新社 ナイトランド叢書)★★★★★

『紫の雲』M・P・シール/南條竹則訳(アトリエサード/書苑新社 ナイトランド叢書) 『The Purple Cloud』M. P. Shiel,1901年。 シールにしては恐ろしいほどに読みやすい。訳者の苦労がしのばれます。 死んだ友人からの手紙には、霊媒が幻視したという今…

『鉄塔 武蔵野線』銀林みのる(新潮文庫)★★★★☆

『鉄塔 武蔵野線』銀林みのる(新潮文庫) 第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 何だかわからないけどすごい。のっけからまったく付いていけません(^^; 鉄塔の説明が事細かに怒濤のごとく書かれてありますが、まったくわかりません。。。 女性型鉄…

『アンメット』1、「かるびのベランダ」オガツカヅオ『ネムキプラス』2021年5月号

『アンメット』1、「かるびのベランダ」オガツカヅオ『ネムキプラス』2021年5月号『アンメット―ある脳外科医の日記―』(1)子鹿ゆずる原作/大槻閑人漫画(講談社モーニングKC) 『ハコヅメ』『スインギンドラゴンタイガーブギ』と同じく『週刊モーニング…

『黒衣の女 ある亡霊の物語』スーザン・ヒル/河野一郎訳(ハヤカワ文庫NV)★★★★☆

『黒衣の女 ある亡霊の物語』スーザン・ヒル/河野一郎訳(ハヤカワ文庫NV) 『The Woman In Black: A Ghost Story』Susan Hill,1983年。 霧のロンドンを離れ、ドラブロウ夫人の遺産整理に訪れるキップス弁護士。列車に乗り合わせた地元の者によれば、町の…

『怪異十三』三津田信三編(原書房)★★★★☆

『怪異十三』三津田信三編(原書房) 東西の怪奇小説十三篇に編者自身の単行本未収録作を加えたもの。四つの採録基準(一、編者自身がぞっとしたもの。二、有名作以外。三、入手困難作。四、国内7&海外6&編者書き下ろし)を満たせずに、著名作も含まれ編…

『幻想と怪奇』5【アメリカン・ゴシック E・A・ポーをめぐる二百年】(新紀元社)

「〈幻想と怪奇〉アートギャラリー アーサー・ラッカム」「A Map of Nowhere 05:ダーレス「深夜の邂逅」のプロヴィデンス」藤原ヨウコウ「深夜の邂逅」オーガスト・ダーレス/荒俣宏訳「アメリカン・ゴシックの瞬間」巽孝之 「夢遊病――ある断章」チャールズ…

『厨師、怪しい鍋と旅をする』勝山海百合(東京創元社)★★★☆☆

一応のところは斉鎌《せい・れん》という料理人(厨師)が、李桃源《り・とうげん》という男から腹が空くと自分から餌を食べてしまうという鍋を預かり、次の職場を探しに行くまでの旅路で遭遇したあれこれの顛末――というおおまかな流れが採られています。 と…

『名もなき王国』倉数茂(ポプラ社)★★★★☆

倉数茂の第四作にして最新作は、著者を思わせる語り手が幻の作家・沢渡晶の甥と出会い、晶の遺稿と甥の小説と語り手自身の作品をまとめたもの、という体裁が取られています。 語り手自身の来歴が著者とダブり、雑誌『牧神』や中井英夫の名が現れるなど、はじ…

『ぼぎわんが、来る』澤村伊智(角川ホラー文庫)★★★★★

ぼぎわんと呼ばれる化け物がやって来る――。本書を大きく貫いているのは、タイトル通りの物語です。ですがそこにさまざまな工夫が凝らされていました。 読み進めていくと、ある人物がサイコパス(と断言してしまいます)であることがわかるようになっています…

『ジャック・オブ・スペード』ジョイス・キャロル・オーツ/栩木玲子訳(河出書房新社)★★★★☆

『Jack of Spades』Joyce Carol Oates,2015年。 ジャック・オブ・スペードというのは、さほど売れない作家アンドリュー・J・ラッシュの別名義のペンネームです。隠された暴力性を披瀝したようなノワールな作風が特徴です。 さてラッシュの隠された暴力性が…


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