『さらば、シェヘラザード』ドナルド・E・ウェストレイク/矢口誠訳(国書刊行会〈ドーキー・アーカイヴ〉)★★★☆☆

『Adios, Scheherazade』Donald E. Westlake,1970年。 スランプに陥ったポルノ作家が、とにかく文章を打とうとして妄想や悩みや雑感を書きつづるという、基本的にはおバカな話です。『さらば、オマ×コ野郎』というタイトルでは編集者の許可が下りないだろう…

『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』中村融編(創元推理文庫)★★★★☆

奇妙な味を中心としたアンソロジー第2団。『街角の書店』以上に「理屈では割り切れない余韻を残す」作品を重視したとのこと。 「麻酔」クリストファー・ファウラー/鴻巣友季子訳(On Edge,Christopher Fowler,1992)★★★☆☆ ――ナッツを噛んで歯が砕けてしま…

『鳥の巣』シャーリイ・ジャクスン/北川依子訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★★☆

『The Bird's Nest』Shirley Jackson,1954。 2016年に『日時計』『処刑人(絞首人)』と立て続けに未訳長篇が翻訳されたジャクスンの、これまた未訳だった長篇作品とあって読む前から否が応でも期待は高まりますが、期待に違わず一行目から面白い。 「博物…

『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』マイクル・ビショップ/小野田和子訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★★☆

『Who Made Stevie Crye? : An Novel of the American South』Michael Bishop,1984,2014。 作家の使っているタイプライターが勝手に動き始める……モダン・ホラーのパロディというだけあって、なるほど確かにどこかで見たことのあるような内容です。 エッセイ…

『幻想と怪奇』4【吸血鬼の系譜 スラヴの不死者から夜の貴族へ】(新紀元社)

このタイミングで吸血鬼をテーマにしたのは別に『鬼滅の刃』にあやかったわけではなく、たまたまのようです。「A Map of Nowhere 04:ネルダ「吸血鬼」のプリンキポ島」藤原ヨウコウ 河出文庫『東欧怪談集』に邦訳のあるヤン・ネルダ「吸血鬼」より。 「パル…

『文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション 呪』東雅夫編(汐文社)★★★★☆

第4巻はテーマも「呪」というだけあってか、カバーイラストも呪いそのまんまで挿絵もストレートに怖い絵になっています。 「笛塚」岡本綺堂(1925)★★★★☆ ――十一番目の男が語る。僕の国では昔から能狂言が盛んだった。武士のうちにも笛をふく者もあった。十…

『痛みかたみ妬み 小泉喜美子傑作短篇集』小泉喜美子(中公文庫)★★★☆☆

双葉社から出版されていた『痛みかたみ妬み』全篇に、『またたかない星』収録作から『殺さずにはいられない』には未収録の2篇と、『小説ジュニア』掲載の単行本未収録作2篇を加えた増補復刊短篇集とのこと(解説より)。 「痛み La Peine」(1978)★★★☆☆ ―…

『引き潮』ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン/駒月雅子訳(国書刊行会)★★★★☆

『The Ebb-Tide』Robert Louis Stevenson&Lloyd Osbourne,1894年。 落ちぶれた三人組が人生の大逆転を狙って船ごと積荷の乗っ取りを企む物語です。 冒頭まず三人の落ちぶれぶりが描かれます。不健康にも祟られ、食べるものにも事欠いて、物乞いをしたり物…

『ほんとうの花を見せにきた』桜庭一樹(文春文庫)★★★★☆

3つの短篇――というよりは、各作品の結びつきが強いので、3章から成る連作長篇という方が適切でしょう。 一話目の「ちいさな焦げた顔」は、組織に家族を惨殺された少年・梗ちゃんが中国奥地に起源を持つ吸血鬼〈バンブー〉ムスタァに救われ、ムスタァの相棒…

『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ/木村榮一訳(国書刊行会 文学の冒険)★★★★★

『La Casa de Los Espiritus』Isabel Allende,1982年。 語り自体が予言的だ、というのはあります。例えば第一章の冒頭でまず犬が来たことが書かれ、しかるのち「以後」「九年間」と将来のことが語られます。こうした語られ方が、あらかじめすべてが定められ…

『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』木犀あこ(角川ホラー文庫)★★☆☆☆

第24回日本ホラー小説大賞の優秀賞受賞作「幽霊のコンテクスト」と書き下ろし「逆さ霊の怪」を収録。 ホラーというよりは、怪異(都市伝説)を狩猟してゆくキャラクター小説です。怪異を渡り歩くのは、ゴーストハントではなく飽くまで取材のためです。取材の…

『怪談撲滅委員会 幽霊の正体見たり枯尾花』黒史郎(角川ホラー文庫)★☆☆☆☆

存在しない幽霊を退治するのではなく、実際に害を及ぼしている怪談を撲滅する――こうしたあらすじとタイトルだけ見たなら、怪談を自然現象として解体したり科学的に解明したりする話だと思ってしまいますが……。 実際のところは違います。 幽霊は「幻覚」だそ…

『幻想と怪奇』3【平井呈一と西洋怪談の愉しみ】(新紀元社)

「夢と嵐の海 平井呈一訳に導かれて」佐野史郎「A Map of Nowhere 03:マッケン「眩しい光」のカルディ島」藤原ヨウコウ「平井呈一のマッケン」南條竹則 「消えた心臓」M・R・ジェイムズ/平井呈一訳(Lost Hearts,M. R. James,1904)★★★☆☆ ――スティーヴ…

『文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション 恋』東雅夫編/谷川千佳絵(汐文社)★★★☆☆

「幼い頃の記憶」泉鏡花(1912)★★★☆☆ ――五つくらいの時と思う。船に乗って、母の乳房を摘み摘みしていたように覚えている。そばに一人の美しい若い女のいたことを、私はふと見出した。今思ってみると、十七ぐらいであったと思う。いかにも色の白い、瓜実顔…

『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 獣』東雅夫編/中川学絵(汐文社)★★★☆☆

挿絵は泉鏡花の絵本でおなじみ中川学です。 「山月記」中島敦(1942)★★★★☆ ――隴西の李徴は博学才穎であったが、賤吏に甘んずることを潔しとせず、ひたすら詩作に耽った。しかし文名は容易にはあがらず、ついに発狂したまま二度と戻ってはこなかった。翌年、…

『J・G・バラード短編全集2 歌う彫刻』柳下毅一郎監修(東京創元社)★★★★☆

『The Complete Short Stories: J. G. Ballard』 「重荷を負いすぎた男」増田まもる訳(The Overloaded Man,1961)★★★★☆ ――フォークナーはゆっくりと狂いかけていた。妻にはまだ言っていないが、ビジネススクールの講師を二か月前に辞めていた。妻のキスは…

『象』スワヴォーミル・ムロージェック/長谷見一雄他訳(国書刊行会 文学の冒険)★★★★☆

『Słoń i inne opowiadania』Sławomir Mrożk,1974年。 初期の短篇集4冊の合本『象その他の物語』のうち、『実用的な半鎧』を除く3冊のなかから2/3ほど選んだもの+漫画集『デッサン集』から選ばれたものです。 『象』(Słoń,1957)「馬になりたい」沼…

『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 夢』東雅夫・編/山科理絵・絵(汐文社)★★★★★

タイトル通り十代向けの文豪怪談アンソロジー。挿絵・総ルビ・註釈つき。「夢十夜」夏目漱石(1908)★★★★★ ――こんな夢を見た。あおむきに寝た女が、もう死にますという。「死んだら、埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って、そうして星の破片を墓標に置…

『CHICO IN TELESCOPE 望遠鏡の国のチコ』中江嘉男・作/上野紀子・絵/多田文子・訳(私家版)

著者コンビのライフワークである〈チコ〉シリーズの一冊。 望遠鏡を持った寄り目の女の子チコが存在について問い、考えている作品で、コラージュのようなチコが描かれています。いくつも重なっていたり、平面の存在だったり、望遠鏡の中に自分の姿が見えてい…

『処刑人』シャーリイ・ジャクスン/市田泉訳(創元推理文庫)★★★★☆

『Hangsaman』Shirley Jackso,1951年。 空想癖のある少女、新しい環境の洗礼、人に言えない過去、独善的な父親、憧れの教師……道具立ては王道の少女小説ですし、作品を覆っているある種の息苦しさはまさに少女時代特有のものだとも言えます。自分の世界に逃…

『幻想と怪奇』2【人狼伝説 変身と野性のフォークロア】(新紀元社)

表紙イラストは第1号に続きひらいたかこですが、普段の作風とは違い狼がリアルなので気づきませんでした。「A Map of Nowhere 02:「人狼」のハルツ山地」藤原ヨウコウ「人狼映画ポスター・ギャラリー」「人狼」野村芳夫「人狼(『人狼ヴァグナー』第十二章…

『J・G・バラード短編全集1 時の声』柳下毅一郎監修(東京創元社)★★★★☆

アメリカで刊行された短篇全集の邦訳版らしいです。「プリマ・ベラドンナ」「時間都市」「スターズのアトリエ5号」は創元SF文庫『時間都市』(→感想)の宇野利泰訳で読んでいました。 「序文」J・G・バラード「序文」マーティン・エイミス「プリマ・ベ…

『むずかしい年ごろ』アンナ・スタロビネツ/沼野恭子・北川和美訳(河出書房新社)★★★★★

『Переходный возраст』Анна Старобинец,2005/2011年。「むずかしい年ごろ」沼野恭子訳(Переходный возраст)★★★★★ ――いったいいつからだっただろう? 二年? 三年前? 最初のうちは息子がぼんやりするようになっただけだった。それから外に出るのを嫌がり…

『少年十字軍』マルセル・シュオッブ/多田智満子訳(国書刊行会『マルセル・シュオッブ全集』)★★★★☆

『少年十字軍』(La Croisade des enfants,1896) 時を同じうしてあらゆる地域の村々町々より、児どもらが、走りゆきたり。何処へ行くやと問はるれば、イエルサレムへ、とこたへぬ。今日なほ、かれらが何処へたどりつきしやつまびらかならず。かれら、出奔…

『ドン・キホーテの消息』樺山三英(幻戯書房)★★★★☆

樺山三英数年ぶりの作品の題材はドン・キホーテ。人捜しを依頼されたペット捜し専門の私立探偵が、消えた老人を捜す「探偵」パートと、みずからをドン・キホーテだと信じる老人が従者サンチョ・パンサとともに現代に繰り出す「騎士」パートから成ります。 樺…

『オットーと魔術師』山尾悠子(集英社文庫コバルト・シリーズ)★★★☆☆

作品集成未収録のジュヴナイル作品集です。 「オットーと魔術師」 ――ネコの仔が病気になって何も食べなくなってしまった。オットーはマリコさんに言われて魔術師のところにネコを診せに行った。 安易なオノマトペにひねりのないストーリーと、なるほど本来の…

『人形つくり』サーバン/館野浩美訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★☆☆

「リングストーンズ」(Ringstones,Sarban,1951)★★★★☆ ――ダフニから送られてきた小包には、異様な手記が入っていた。ラヴリン博士から家庭教師のような仕事を頼まれたダフニは、ヌアマンという男の子と、マルヴァンとイアンセという双子の女の子、カティ…

『虚構の男』L・P・デイヴィス/矢口誠訳(国書刊行会 ドーキー・アーカイヴ)★★★☆☆

『The Artificial Man』L. P. Davies,1965年。 本書は、まるで書けない作家の物語のように幕を開けます。 小説家のアランが初長篇のアイデアもタイトルも浮かばずにいたところ、友人のリーから「五十年後を舞台にした架空の伝記」というアイデアを示唆され…

『幻想と怪奇』1【ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會】

「新創刊の辞」紀田順一郎・荒俣宏「A Map of Nowhere 01:『吸血鬼ドラキュラ』のウィトビー」藤原ヨウコウ 『ナイトランド』とおんなじだと思ったら、編集が『ナイトランド』の牧原勝志氏なんですね、納得。 「ヴィクトリアン・インフィニティ」北原尚彦 「…

『柳花叢書 山海評判記/オシラ神の話』泉鏡花/柳田國男/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

交流のあった「柳」田國男と泉鏡「花」の作品から、互いに「所縁深き作品群」を収録したアンソロジーです。 『山海評判記』泉鏡花(1929)★★★★☆ ――能登の旅館に泊まった小説家の矢野誓は、按摩から「長太居るか」の昔話を聞く。山に住む若者・長太が、化け狸…


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