『手袋の中の手』レックス・スタウト/矢沢聖子訳(ポケミス1786)★★★☆☆

シオドリンダ・ボナーは私立探偵。親しい人からはドルと呼ばれている。共同経営者のシルヴィア・ラフレーが事務所にやって来たとき、婚約者のマーティン・フォルツが事件相談の最中だった。地所のキジが絞め殺されるという事件が何度も起こったのだ。マーテ…

『無限がいっぱい 異色作家短篇集9』ロバート・シェクリイ/宇野利泰訳(早川書房)★★★★★

原題『Notions:Unlimited』Robert Sheckley,1960年。「グレイのフラノを身につけて」(Gray Flannel Armor)★★★☆☆ ――トマス・ハンリーは一見常識人らしい外貌を示しているが、その皮膚の下にはロマンチックな血潮が打ち騒いでいる青年である。だがロマンス…

『S-Fマガジン』2006年07月号(603号)【太陽系探査SF特集】★★★★★

惑星探査を扱ったハードSF短篇だなんて書かれていたから、ゴリゴリのハードSFばかりかと思って少し気が重かったのだけれど、ストーリー的にはファンタジーっぽいものもあってバランスよく読みやすかった。なんといっても若島正氏の新連載が始まったのが…

『ミステリーズ!』Vol.16 2006年4月 ★★★★☆

「シャーロック・ホームズ変奏曲」06佐久間真一 ――「ワトスンの苦労はつづく…」ということですが、画題がよくわからない。「私の一冊〜書きたいという衝動〜」永井するみ ――元気になれる『女彫刻家』だそうです。イヤな話だったけどな。「私がデビューしたこ…

『ミステリマガジン』2006年7月号No.605【創刊50周年記念号】★★☆☆☆

少し前に600号記念だと思ったら今度は50周年記念である。お祭りは600号にゆずって50周年は比較的地味。せっかくの50周年記念号なのに、記念ならではの「これは」というものがなかった。「創刊五十周年記念」 「エッセイ大特集」 なんだかごった煮だなぁ。ミ…

『美の死 ぼくの感傷的読書』久世光彦(ちくま文庫)★★★★★

去る三月に亡くなった久世光彦氏の書評集。第一部がいきなり《名文句を読む》である。久世氏の名文と名文句で綴られる、名文句についての書評。こんなぜいたくな話はないんではないでしょうか。当然のごとく、引かれる名文句は、久世氏の文章に負けぬ強者た…

『博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』サイモン・ウィンチェスター/鈴木主税訳(ハヤカワ文庫)★★★☆☆

一八七二年のロンドンの一角――三発の銃声が響いた。その場で身柄を拘束された男は、誰かに命を狙われていたのだと妄想を口走った。男はウィリアム・マイナー、アメリカ人。「脳の障害」のためイギリスに保養に来ていたのだった。精神異常を証明されたマイナ…

『エデンの命題』島田荘司(カッパ・ノベルス)★★★★☆

名探偵ものじゃない方がバランスはよいんだろうな。御手洗ものだと、大まかに言っても謎&物語パート・探偵パート・犯人の告白or回想パートの三つに分けられるから。で、『水晶のピラミッド』みたいに物語パートは素晴らしいじぇ、『眩暈』みたいに探偵パー…

『剣の八』ジョン・ディクスン・カー/加賀山卓朗訳(ハヤカワ文庫)★★☆☆☆

ハドリー警視が警視監から頼まれたのは驚くべきことだった。スタンディッシュ大佐の屋敷にポルターガイストが出たのだ。絵が床に落ち火かき棒が動き出した。宿泊中の牧師が助けを求めて祈っていると、インク壺が飛んできた。叫びを聞いて屋敷中の人間が駆け…

『あなたに不利な証拠として』ローリー・リン・ドラモンド/駒月雅子訳(ポケミス1783)★★★★☆

重たくてしんどい話なのかと思っていたけど、読んでみたらけっこうリーダビリティが高かった。最後が癒しとか啓発系の話になってしまったのが残念。原題『Anything You Say Can and Will Be Used Against You』。『キャサリン』(Katherine)★★★★★ 「完全」…

『血は冷たく流れる 異色作家短篇集8』ロバート・ブロック/小笠原豊樹訳(早川書房)★★★★☆

「芝居をつづけろ」(The Show Must Go On)★★★★☆ ――かれが行ったときは休憩時間で、劇場のとなりの居酒屋は混んでいた。酔っぱらいがからんできた。役に没入したままムードを壊さず劇場に行かなければならない。 芝居=ショウ。意外な結末を演出するためち…

『S-Fマガジン』2006年06月号(602号)【ヤング・アダルト・ノベル特集】★★★★☆

ヤング・アダルト・ノベル特集だというので、ラノベ特集かよーと思ったのだけれど、日本のYAではなく海外のYAのことでした。海外児童文学特集。「My Favorite SF」(第6回)上遠野浩平 コードウェイナー・スミス『鼠と竜のゲーム』。未読だけど、きっと…

『ミステリマガジン』2006年6月号【特集=鉄道ミステリの旅】★★★★☆

特集 鉄道ミステリの旅 鉄道ミステリというと、時刻表をめぐる退屈なアリバイミステリというイメージがあったけれど、今回特集されているのは広く鉄道・線路が舞台となったミステリすべて。古典から幻想作品まで幅広く収録されてました。出来不出来・好き嫌…

『ウは宇宙船のウ』レイ・ブラッドベリ/大西尹明訳(創元SF文庫)★★★☆☆

映画『サウンド・オブ・サンダー』公開に合わせた文字の大きな新装版。「「ウ」は宇宙船の略号さ」(R is for Rocket)★★☆☆☆ ――そのフェンスにぼくらは顔を押しつけて待っていた。宇宙船。早く大人になりたい。そして選抜してもらわなければ。ぼくはそれを待…

『ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集』筒井康隆(新潮文庫)★★★★★

「薬菜飯店」★★★★★ ――その店のメニューを見た瞬間、ぐび、とおれののどが鳴った。長ったらしい料理の名前がまことに刺戟的であった上、その効能が現在のおれのからだの具合が悪いところすべてに関係していたからである。 夢のような料理である。もしも病気が…

『ウースター家の掟』P・G・ウッドハウス/森村たまき訳(国書刊行会ウッドハウス・コレクション)★★★★☆

バーティーとジーヴスが世界一周クルーズに出かけるかどうかで言い合っているところに、ガッシーから電報が届いた。婚約者のマデラインと喧嘩をしたから今すぐトトレイ・タワーズに来てほしい。すわ一大事と準備をしていると、ダリア叔母さんが登場。トム叔…

『ポルノ惑星のサルモネラ人間 自選グロテスク傑作集』筒井康隆(新潮文庫)★★★★☆

「ポルノ惑星のサルモネラ人間」★★★★★ ――地球から学術調査隊が訪れたポルノ惑星で、美人隊員の島崎博士が妊娠した! 原因は妖草ゴケハラミ。その処置を原住民に聞き出しに向かったおれが見た、奇怪な動植物の数々。 これぞ筒井康隆!なハチャメチャワールド…

『キス・キス 異色作家短篇集1』ロアルド・ダール/開高健訳(早川書房)★★★★☆

「女主人」(The Landlady)★★★★☆ ――ビリイ・ウィヴァーが訪れた下宿は破格の値段だった。四十五〜五十がらみの女主人がいるほかは、客の一人もいないようだ。宿帳には二人の名前しかない。確かこの名前には見覚えがあるのだが……。 結末なんて誰にでも予想が…

『S-Fマガジン』2006年05月号(601号)西島大介&タカノ綾特集 ★★★★☆

「My Favorite SF」(第5回)梶尾真治 アーサー・C・クラーク『太陽系最後の日』。『SFマガジン』創刊号で読んだというのがえらい。「押井守『立喰師列伝』とは何か」 押井守監督の最新作は――何だかすごいことになってる。実際に見てみないと文章と写真…

『難破船』スティーヴンスン&オズボーン/駒月雅子訳(ポケミス1771)★★★★☆

イギリスの軍艦が、南洋ミッドウェイ沖で座礁したフライング・スカッド号の生存者たちを救助して、サンフランシスコに入港した。パリで知り合った芸術家肌のラウドン・ドッドと実業家ジム・ピンカートンは、財宝を積んでいると噂されるこの難破船の権利を、…

『炎のなかの絵 異色作家短篇集7』ジョン・コリア/村上啓夫訳(早川書房)★★☆☆☆

“異色作家”の中では正統派に属する作家だと思います。軽妙で正統的な落とし話を得意とする作家――だと思っていたのですが、意外といろいろなタイプの作品があります。でもやっぱり面白いのは軽くてオチのある話でした。「夢判断」(Interpretation of a Dream…

『ページをめくれば 奇想コレクション』ゼナ・ヘンダースン(河出書房)★★★★★

「忘れられないこと」(The Incredible Kind)★★★★☆ ――何年も教師をやっていて一度だけ、忘れられないことが起こった。男の子がひとり転校してきた。ヴィンセント。読みかたを除けば年齢以上に優秀だった。ある日、ヴィンセントとジーンが大げんかをした。リ…

『ミステリマガジン』2006年5月号【追悼特集=マイクル・ギルバート】

追悼特集 マイクル・ギルバート 寡聞にして知らず。『捕虜収容所の死』[bk1・amazon]の名を聞いたことがあるくらい。エッセイも評論もなしの短篇八篇の特集。雑誌形式の短篇集といってもいいくらいマイクル・ギルバート一色なのでファンなら買いでしょう。…

『怪盗グリフィン、絶体絶命』法月綸太郎(ミステリーランド)★★★★☆

ニューヨークの怪盗グリフィンに、メトロポリタン美術館が所蔵する贋作のゴッホの自画像を盗んでほしいという依頼が舞いこんだ。「あるべきものを、あるべき場所に」が信条のグリフィンがとった大胆不敵な行動とは! 法月氏は後期クイーン論だ何だと難解なイ…

『びっくり館の殺人』綾辻行人(ミステリーランド)★★★★☆

クリスマスの夜、「びっくり館」に招待された三知也たちは、「リリカの部屋」で発生した奇怪な密室殺人の第一発見者に! あれから10年以上がすぎた今もなお、事件の犯人はつかまっていないというのだが…。 まずはタイトルに大笑い。館ものの正式な第八作だ…

『眠れる人の島』エドモンド・ハミルトン/中村融編(創元推理文庫)★★☆☆☆

〈SF〉編の『反対進化』がそこそこ面白かったこともあって期待してたんですが……。〈怪奇幻想〉編とはいいつつ、ほとんどが〈秘境冒険〉編でした。カバーイラストは幻想的ですごくいいんですけどね。収録作は幻想的というより神話的なこってり味ファンタシ…

『デス博士の島その他の物語』ジーン・ウルフ(国書刊行会) ★★★★★

「まえがき」(Foreword,1983)★★★★★ ――島に関する作品がほかにないわけではない。だがこの三篇はひとつのセット、題名を使ったことば遊びを構成している。最初の物語「デス博士の島その他の物語」がそもそものきっかけだった……。そして「死の博士の島」が…

『悪魔のヴァイオリン』ジュール・グラッセ/野口雄司訳(ポケミス1780)★★★★☆

サン=ルイ島の教会で日曜のミサが始まろうとしていた。だが肝心の司祭がまだ現われない。予定の開始時刻ちょうど、呼びにやった聖歌隊の少年が駆け戻ってきた。「司祭様が死んでいます!」司祭は教会近くの自宅で殺されていたのだ。容疑は教会の若きヴァイ…

『ミステリーズ!』Vol.15 ★★★★☆

目玉は「幻の探偵講談」とフェラーズの短篇ですかね。「シャーロック・ホームズ変奏曲」05野間美由紀 「あのひと」のヴェールと、引退後の蜂の巣穴をダブらせるだなんてうまいなあと感心してしまった。「私の一冊〜ジャズが似あう。舞台はフランスなのに〜」…

『S-Fマガジン』2006年04月号(600号)創刊600号記念特大号 ★★★★★

創刊600号記念!とはいっても特にイベントがあるわけではありません。短篇・中篇がてんこもり。量だけじゃなく質も高い。「My Favorite SF」(第4回)小川一水 小川氏のお気に入りは小松左京『日本沈没』。氏の文章を読み終えたとき、「小松左京的な愛国心…


防犯カメラ