『スペース・オペラ ジャック・ヴァンス・トレジャリー』ジャック・ヴァンス/浅倉久志・白石朗訳(国書刊行会)★★★☆☆

SF

『スペース・オペラ』白石朗訳(Space Opera,Jack Vance,1965)★★★☆☆ ――未知の惑星ルラールから来た〈第九歌劇団〉は素晴らしい演目を披露したあと、忽然と姿を消した……オペラの後援者デイム・イサベル・グレイスはその失踪の謎を解決するため、地球の歌劇…

『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』ジュール・ヴェルヌ/大矢タカヤス(彩流社)★★★★☆

『Famille-Sans-Nom』Jules Verne,1889年。 ここ数年つづいているヴェルヌの新訳・初訳・復刊もののなかでは段違いに面白い作品でした。明治時代に森田思軒『無名氏』という抄訳がありますが、恐らく完訳は初めてだと思います。 副題にあるとおり、カナダの…

『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』D・H・ウィルソン&J・J・アダムズ編(創元SF文庫)★★★☆☆

『Press Start to Play』Ed. by Daniel H. Wilson and John Joseph Adams,2015。 原書収録の26編から12編を厳選したもの。 「リスポーン」桜坂洋(2015)★★★★☆ ――おれが牛丼屋でバイトをしていると、強盗が現れた。大男の客が正義感を起こした。怯えた強盗…

『奇想天外 21世紀版 アンソロジー』山口雅也編著(南雲堂)★★☆☆☆

自分好みの雑誌を作りあげるのは編者の特権ですが、自分語りが頻繁に顔を出すのは勘弁してほしかったところです。 「21世紀版奇想天外小説傑作選[海外篇]」「最上階に潜むもの」アーサー・モリスン/宮脇孝雄訳(The Thing in the Upper Room,Arthur Morr…

『ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者』アダム・ロバーツ/内田昌之訳(新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)★★★★☆

『Jack Glass』Adam Roberts,2012年。 人類は宇宙へと生活の場を広げ、ウラノフ一族が支配する新しい体制下で――天下に並ぶ者なき殺人者ジャック・グラスに関わる三つの事件が描かれます。 「第一部 箱の中」(In the Box)★★★★★ ――七人の囚人が小惑星に送ら…

『奇想天外 復刻版 アンソロジー』山口雅也編著(南雲堂)★★☆☆☆

四期にわたる雑誌『奇想天外』掲載作を抽出し、当時の体裁でまとめたアンソロジー。小説・エッセイともに、B級もしくは歴史的意味のものが大半を占めていて、いま読んで面白いものではありませんでした。。 「『奇想天外』=「謎解きが好き」 「大人になれ…

『蒸気で動く家 〈驚異の旅〉コレクションIV』ジュール・ヴェルヌ/荒畑邦博・三枝大修訳(インスクリプト)★★☆☆☆

SF

『La Maison à vapeur. Voyage à travers l'Inde septentrionale』Jules Verne,1880年。 シパーヒーの反乱(セポイの乱)の指導者だったドゥンドー・パント(ナーナー・サーヒブ)がボンベイに現れたという情報がもたらされた。だがナーナーに妻を殺された…

『J・G・バラード短編全集2 歌う彫刻』柳下毅一郎監修(東京創元社)★★★★☆

『The Complete Short Stories: J. G. Ballard』 「重荷を負いすぎた男」増田まもる訳(The Overloaded Man,1961)★★★★☆ ――フォークナーはゆっくりと狂いかけていた。妻にはまだ言っていないが、ビジネススクールの講師を二か月前に辞めていた。妻のキスは…

『翼のジェニー ウィルヘルム初期傑作選』ケイト・ウィルヘルム/伊東麻紀他訳(アトリエサード/書苑新社)★★☆☆☆

SF

河出文庫の『20世紀SF』に「やっぱりきみは最高だ」が収録されていたケイト・ウィルヘルムの短篇+中篇集ですが、今となってはだいぶ古びてしまっているのは否めません。 「翼のジェニー」佐藤正明訳(Jenny with Wings,Kate Wilhelm,1963)★☆☆☆☆ ――翼が…

『J・G・バラード短編全集1 時の声』柳下毅一郎監修(東京創元社)★★★★☆

アメリカで刊行された短篇全集の邦訳版らしいです。「プリマ・ベラドンナ」「時間都市」「スターズのアトリエ5号」は創元SF文庫『時間都市』(→感想)の宇野利泰訳で読んでいました。 「序文」J・G・バラード「序文」マーティン・エイミス「プリマ・ベ…

『サマー/タイム/トラベラー 1・2』新城カズマ(ハヤカワ文庫JA)★★★☆☆

SF

時間SF(?)長篇。 誰よりも(屁)理屈屋の登場人物がいみじくも「世の中に出回っているSFなんて、大半が工学技術の話」と不満を口にしていることからもわかるように、この作品のタイムトラベルは、(登場人物たちによる独自の理論はあるにせよ、そして…

『海を失った男』シオドア・スタージョン/若島正編(河出文庫)★★★★☆

晶文社ミステリ『海を失った男』の文庫化。訳文が手直しされているほか、「ミュージック」の邦題が「音楽」に変更されています。 「音楽」吉村満美子訳(The Music,1953)★★★★☆ ――病院……あいつらは僕を放してくれない。表へ出て煙草を吸うことはできた。夜…

『完全な真空』スタニスワフ・レム/沼野充義・工藤幸雄・長谷見一雄訳(国書刊行会)★★★★☆

レム作品のなかでもかなり有名な、架空の書物の書評集です。 まずはヤラレタ!と思ったのが、序文自体がすでに書評という体裁になっていることでした。本書『完全な真空』の序文が、レムの書いた書籍『完全な真空』についての書評になっているのです。ここま…

『カルパチアの城』ジュール・ヴェルヌ/安東次男訳(集英社文庫)★★★☆☆

SF

『Le Château des Carpathes』Jules Verne,1892年。 ヴェルヌ作品のなかでもかなり異色の作品です。 誰も住んでいないはずの城から煙が立ちのぼっていたことから、勇敢な林務官ニック・デックと臆病なパタク医師が確認しに行こうとした直後、「城には行くな…

『黒いダイヤモンド』ジュール・ヴェルヌ/新庄嘉章訳(文遊社)★★★☆☆

SF

『Les Indes noires』Jules Verne,1877年。 かつて〈黒いインド〉と呼ばれ炭坑町として栄えた、スコットランド地方。そんな炭鉱町のひとつアーバーフォイルでは十年前に石炭を掘り尽くし、今では廃坑となっていた。ところが技師のジェームズ・スターの許に…

『二年間のバカンス』ジュール・ヴェルヌ/横塚光雄訳(集英社文庫)★★☆☆☆

SF

『Deux ans de vacances』Jules Verne,1888年。 従来『十五少年漂流記』の邦題でお馴染みの、ヴェルヌ代表作の一つです。 ページを開くと、嵐のなか漂流している少年たちが必死で船の操縦を試みているところからスタートします。そして次々と(文字通り)顔…

『チャンセラー号の筏』ジュール・ヴェルヌ/榊原晃三訳(集英社文庫)★★★★★

SF

『Le Chansellor』Jules Verne,1875年。 ジュール・ヴェルヌ作品の面白さは誰もが認めるところですが、物語が佳境に入るまでが停滞しているというのも、ときに指摘される欠点でした。 その欠点を見事にクリアしているのが本書です。 8人の乗客と14人の乗組…

『気球に乗って五週間』ジュール・ヴェルヌ/手塚伸一訳(集英社文庫)★★★☆☆

SF

『Cinq semaines en ballon: voyage de découvertes en afrique par trois anglais』Jules Verne,1863年。 記念すべき驚異の旅シリーズ第一作です。 果敢な冒険に沸き立つ人々と、無謀だと反対する友人。冒頭からすでに後年のヴェルヌらしさが見られます。 …

『アドリア海の復讐』(上・下)ジュール・ヴェルヌ/金子博訳(集英社文庫)★★★☆☆

SF

『Mathias Sandorf』Jules Verne,1885年。 冒頭でデュマ・フィスに(というよりもその父親に?)捧げられており、デュマ・フィス自身も父親の『モンテ・クリスト伯』の名前を出してそれに答えています。デュマの『モンテ・クリスト伯』はめっぽう面白い作品…

『インド王妃の遺産』ジュール・ヴェルヌ/中村真一郎訳(集英社文庫)★★★★☆

SF

『Les 500 millions de la Bégum』Jules Verne,1879年。 インド王の未亡人と結婚していた大伯父/大叔父の遺産を受け継いだ二人の科学者が、それぞれの理想を掲げて都市を築きます。フランス人科学者サラザン博士は人間が長生きできる衛生的な都市フランス…

『短篇ベスト10』スタニスワフ・レム(国書刊行会 レム・コレクション)

読者投票および編者および著者によって選ばれたベスト15の原書から、2015年現在日本語での入手が容易な『未来学会議』『完全な真空』収録作を除いた全10篇が収録されています。収録順は原書通り、読者投票の人気順。 ちょっと思ってたのと違いました。ノ…

『タイムリープ あしたはきのう』(上・下)高畑京一郎(電撃文庫)★★★☆☆

SF

意識だけがタイムトリップするという設定が珍しいのですが、そのほうが矛盾なく辻褄を合わせるには好都合で、そうでもなければここまで複雑なことはできなかったでしょう。 主人公の翔香は危険が身に迫ると無意識に安全な時間に移動してしまうため、一週間を…

『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』中村融編(創元SF文庫)★★★★☆

「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ/中村融訳(Hunter, Come Home,Richard Mackenna,1963)★★★★☆ ――この惑星じゃ木は死にやしない。だから薪で火を熾すことができない。恐獣グレート・ラッセルを殺した者だけが、成人男子と見なされた。だが人口…

『緑の光線』ジュール・ヴェルヌ/中村三郎・小高美保訳(文遊社)★★★☆☆

SF

『緑の光線』(Le Rayon-vert,Jules Verne,1882)★★★☆☆ ――サムとシブ・メルヴィル兄弟の生き甲斐は、姪のミス・キャンベル(ヘレーナ)を幸福にしてやることだった。ミス・キャンベルの結婚相手として二人のめがねにかなったアリストビューラス・ウルシク…

『S-Fマガジン700 国内篇』大森望編(ハヤカワSF文庫)★★☆☆☆

書籍初収録を多数収録。「緑の果て」手塚治虫(1963)★★★☆☆ ――最終戦争によって全滅した地球から、からくも逃げのびたわれわれは、密雲の下にある草ばかりの星に着陸した。 なぜ擬態するのか――?という謎に対する解答が、極めて合理的で、単なる「奇想」では…

『S-Fマガジン700 海外篇』山岸真編(ハヤカワSF文庫)★★★☆☆

SFマガジン700号記念のアンソロジー海外篇。著者短篇集に未収録の作品(単行本未収録作品も含む)が選ばれています。敢えて超有名作家のものばかり選んだという方針が残念。 「遭難者」アーサー・C・クラーク/小隅黎訳(Castaway,Arthur C. Clarke,194…

『地底旅行』ジュール・ヴェルヌ/高野優訳(古典新訳文庫)★★★★☆

『Voyage au centre de la terre』Jules Verne,1864年。 高野優氏による大胆な古典新訳ヴェルヌ第二弾。「リーデンブロック教授とガイドのハンスはドン・キホーテとサンチョ・パンサである」という解釈のもとに、常識人である甥のアクセルが教授の無茶苦茶…

『洞窟で待っていた』松崎有理(岩崎書店 21世紀空想科学小説)★★★☆☆

岩崎書店と日本SF作家クラブが組んだジュヴナイルシリーズの一作。 地下道ならぬ洞窟好きの少年少女に、「『へむ』へむさん」なる漫画も登場する、ちょっとしたファンサービスも。 妙に細かい蘊蓄を除けば、子どもたちが世界を救うという変哲のないジュヴ…

『ジャンガダ』ジュール・ヴェルヌ/安東次男訳(文遊社)★★★☆☆

SF

『La Jangada』Jules Verne,1881年。 前半は娘の結婚式のため筏に乗ってアマゾン川を下って町を目指すという、正直に言って冒険小説としてもお世辞にも面白いとは言えない内容でした。 それが後半に入って一転します。何と父親は冤罪をかけられた脱獄囚。無…

『無限のドリフター』樹常楓(電撃文庫)★★★☆☆

SF

SFマガジンで紹介されていた「J・G・バラードの小説が好きなの。この人はとても心地のいい終わりを書く人でね。」という台詞に惹かれて購入。この台詞に代表されるように(※ほかにスタージョンの九割クズ発言を「サド格言」という記述もあり。)、著者の…


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