『海へ出るつもりじゃなかった アーサー・ランサム全集7』神宮輝夫訳(岩波書店)★★★★☆

『We Didn't Mean To Go To Sea』Arthur Ransom,1937年。 航海から帰ってくるおとうさんに会いに、ハリッジにやって来たウォーカー一家。そこで若者ジム・ブラディングと知り合い、ウォーカー兄弟たちはジムの船に泊まって川上りをすることに。だがジムがガ…

『All You Need Is Kill』桜坂洋(集英社スーパーダッシュ文庫)★★★★☆

SF

ループもの。ギタイと呼ばれる生物(?)を倒す一日を繰り返すようになってしまったキリヤ・ケイジ。何度も、何度も、何度も、戦闘を繰り返し、そのたび仲間を殺され、自分も死に、戦女神リタに助けられ……ギタイの正体とループの理由(植民惑星開発のための…

『R&R』静月遠火(メディアワークス文庫)★★★★☆

タイムリープもの。同じ一日を繰り返すため、何度も試行錯誤を繰り返すその過程と「真相」さがしが、謎解きミステリにも通じる面白さです。そして一気に伏線が回収されるクライマックスは、真相ではないというひねり具合。 ゴールデンウイーク明けの5月7日、…

『ブラックアウト』コニー・ウィリス/大森望訳(新ハヤカワSFシリーズ5005)★★★★☆

『Blackout』Connie Willis,2010年。 いくつもウィリス作品を読んでくると、ストーリーをコメディで引き伸ばす、というウィリスの技法にはどうにも食傷気味。ではあるのだけれど、本書の場合にはそれが大戦下のイギリス、ロンドンをじっくり描くことにもつ…

『第六ポンプ』パオロ・バチガルピ/中原尚哉・金子浩訳(早川書房 新ハヤカワSFシリーズ5002)

『Pump Six and Other Stories』Paolo Bacigalupi,2008年。 『ねじまき少女』のパオロ・バチガルピ第一短篇集の全訳。 『S-Fマガジン』で既読の作品をのぞく五篇を読む。 「ポケットのなかの法《ダルマ》」(Pocketful of Dharma,1999)★★★★☆ ――浮浪少年…

『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』スコット・ウエスターフェルド/小林美幸訳(新ハヤカワSFシリーズ5001)★★★☆☆

『Leviathan』Scott Westerfeld,2009年。 オーストリア皇太子夫妻が「毒殺」された世界――遺伝子操作によって機械ではなく生物を発達させたイギリス等と、蒸気機関を発達させたドイツ諸国。 命を狙われ逃亡する皇太子夫妻の息子アレクサンダー(アレック)と…

『あがり』松崎有理(創元日本SF叢書01)★★★★★

SF

第一回創元SF短編賞受賞作「あがり」を含むデビュー作品集。一時期の新本格ミステリは学生ミステリばかりだったけれど、キャンパスSFというのは意外と未開拓かも。「あがり」のインパクトが大きいので同じようなSFオチのある話を期待してしまいました…

『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない』高野史緒編(東京創元社)★★★★★

SFはともかくファンタスチカとはなんぞや?ということになりますが、SF・ファンタジー・幻想小説その他いろいろすべて引っくるめた非リアリズム系の作品だと思えば、当たらずとも遠からず、でしょうか? 編者は例としてレム、エリアーデ、カフカ、チャペ…

『紫色のクオリア』うえお久光(アスキー・メディアワークス電撃文庫)★★★★☆

SF

「ニンゲンがロボットに見えるという」少女――というと、『火の鳥』復活編を連想してしまいましたが、実は全然違いました。単に見え方が違うというレベルの話ではなく、認識とはどういうことかという根本的なところにまで踏み込まれた、SFでしかありえない…

『θ 11番ホームの妖精』籐真千歳(アスキー・メディアワークス電撃文庫)★★★★☆

SF

帯の紹介文に書かれた「ハードSF」という言葉に初めはピンと来ませんでしたが、改めて思い返してみれば、なるほど確かにすべてが理詰めです。例えば、かめはめ波を押し戻されて、それを「波〜!」の気合いだけで押し返すというような、強引なシーンはあり…

『地球の静止する日』ハリー・ベイツ他/南山宏・尾之上浩司訳(角川文庫)★★★☆☆

角川文庫の背表紙デザインがまた変わった。誰も望んでないのにね。昔のみたいにヘボくなって懐かしい。 アンソロジーなのに各篇扉に著者名がなくタイトルだけというデザインが斬新。映画原作ものだから、原作者ではなく映画化名をアピールしたのかと思ったの…

『マザーズ・タワー』吉田親司(早川書房Jコレクション)★★★☆☆

SF

『S-Fマガジン』で序章を読んだかぎりでは、ヒロインのために寄り集まった男たちが奮闘する冒険ものだと思ったのだけれど、メインは別のところにありました。 カバーあらすじにも書かれているからバラしてしまうけれど、この小説の肝は「軌道エレベーター…

『おもいでエマノン』鶴田謙二/梶尾真治原作(徳間書店リュウコミックス)★★★★★

原作者も漫画家もお互いに思い入れがあるだけあって、初めからこの原作は本書のためだけに存在していたかのような完成度です。 「女性がタバコを吸うのはよくないと思うよ(中略)第一 あまり見た目がよくないよ…」という台詞はありながら、ほれぼれするくら…

『世界の涯まで犬たちと』アーサー・ブラッドフォード/小川隆訳(角川書店)★★★★☆

『Dogwalker』Authur Bradford,2001年。 『SFマガジン』ではケリー・リンクやジュディ・バドニッツやミルハウザーの名が引き合いに出されていたが、もっとヘンテコでシュールでアホである。「キャットフェイス」(Catface)★★★★☆ ――ぼくは部屋をシェアし…

『虐殺器官』伊藤計劃(早川書房Jコレクション)★★★★★

SF

フィクションという形でだからこそ最大限効果的に現実を描き出すという当たり前のことを、デビュー作で軽々とやってしまいました。 執拗なほど事細かな迫真の戦闘描写、カフカやゴドーになぞらえられる不条理なスパイ活動、くだらないジョーク、超管理社会と…

『Self-Reference ENGINE』円城塔(早川書房)★★★★★

SF

『S-Fマガジン』で「A to Z Theory」→「Boy's Surface」→「Your Heads Only」→「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」と読んでから本書を読んでみると、驚くほどにまともで親切でわかりやすい(^_^;。 というか、わたしにはこ…

『ジャン=ジャックの自意識の場合』樺山三英(徳間書店)★★★★★

日本SF新人賞受賞作。というだけなら手に取らなかったんですが。日本ファンタジーノベル大賞落選後に日本SF新人賞受賞なのだとか。 ものすごく乱暴に要約するならば、ジャン=ジャック・ルソーの理想に絡め取られたマッド・サイエンティストが夢見た実験…

『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』ブライアン・W・オールディス/柳下毅一郎訳(河出文庫)★★★☆☆

SF

『Brothers of the Head』Brian W. Aldiss,1977年。 まあこうなるしかないわなあ。第三の頭があるあたりがユニークといえばユニークだけど。比喩的な話(それも双子という形に限らなければ)、それこそ星の数ほど書かれてきた物語ではある。 あとは、本人た…

『大失敗』スタニスワフ・レム/久山宏一訳(国書刊行会レム・コレクション)★★★☆☆

『Fiasko』Stanislaw Lem,1987年。 訳文が半端じゃなく読みづらい。註釈やあとがきからわかるとおり、この本の訳者はどうも翻訳者タイプではなく研究者タイプのようだ。直訳というか、律儀訳なのである。まあ慣れれば問題ない。 内容的にはどうなんだろう。…

『SFが読みたい! 2007年版』(早川書房)★★★☆☆

SF

メインは飛浩隆と浅倉久志のインタビュウ。そのほか「文芸ノンフィクション」「科学ノンフィクション」ベスト10がよかった。小説と比べるとどうしてもノンフィクションは手薄になるので。特に『幻想文学、近代の魔界へ』『あったかもしれない日本』『クマ…

『贈る物語 Wonder すこしふしぎの驚きをあなたに』瀬名秀明編(光文社文庫)★★★★☆

綾辻編と比べてみても、半分近くが未読作品なのがありがたい。編者によるエッセイもくどいほど充実している。「夏の葬列」山川方夫★★★★☆ ――あれは戦争の末期だった。あれ以来、おれは一度もこの町をたずねたことがない。ひろい芋畑の向うに、一列になって、…

『シャーロック・ホームズのSF大冒険』(下)マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ編/日暮雅通監訳(河出文庫)★★★☆☆

「数の勝利」ゲイリー・アラン・ルース/五十嵐加奈子訳(The Holmes Team Advantage,Gary Alan Ruse)★★★☆☆ ――盗まれた品物が、なぜか間もなく返ってくるという事件があちこちで発生していた。犯行現場に残されていたのは、証拠物件として警察に保管されて…

『シャーロック・ホームズのSF大冒険』(上)マイク・レズニック&マーティン・H・グリーンバーグ編/日暮雅通監訳(河出文庫)★★★☆☆

ショージキ言って、今になってわざわざ全訳刊行するほどのものじゃない。誰にでも楽しめるパロディというよりはマニア向けである。「序――死ぬことを拒否した探偵」マイク・レズニック/日暮雅通訳(Introduction:The Detective Who Refused to Die,Mike Re…

『ぼくがカンガルーに出会ったころ』浅倉久志(国書刊行会)★★★☆☆〜★★★★★

SF翻訳家・浅倉久志のエッセイ集。とはいっても大半を文庫解説(訳者あとがき)が占める。 後半はSF入門として読めるので万人向け。前半のディックとヴォネガットの文庫解説は著者のファン向けかな。ディックとヴォネガットに特に思い入れのない人間にと…

『眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く』アンドリュー・パーカー/渡辺政隆・今西康子訳(草思社)★★★★★

カンブリア紀の大爆発はなぜ起きたのか? この生命進化史の謎に迫るのが本書である。原題『In the Blink of an Eye』Andrew Parker,2003年。読みやすい科学読み物。ノンフィク系って文芸にくらべるとまだまだ訳文が硬いイメージがあったのだけれど、本書は…

『特盛!SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話』大森望 ★★★☆☆

SF

むか〜し『SFマガジン』に連載されていたコラムを一冊にまとめたもの。著者のまとめ方がうまいのかわたしが前評判を真に受けすぎたのか、思っていた以上に翻訳に関わる話が多かったです。 素人翻訳やってる身としては、視点を固定して代名詞を省略するとい…

『星のカギ、魔法の小箱』小谷真理 ★★★★★

SF

さして都会に住んでいるわけでもないので、大手の文庫や雑誌ならともかく、単行本が発売日とともに書店店頭に並ぶということは少ない。そんなわけだから、購入をためらっているものなら大型書店で確認するのだけれど、初めから買うと100%決めているものにつ…

『天の声・枯草熱』スタニスワフ・レム

長篇二つのカップリングだというから、短めの長篇二作かと思っていたら、細かい字でみっちり二段組みでした。特に『天の声』。読んでも読んでもページが先に進まない……。めげそうになりました。 つまらなくはないんですけどね。何て言うんでしょうか。すごく…


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