『神が忘れた町』ロス・トーマス/藤本和子訳(早川書房)★★☆☆☆

 期待したんだけどな。ときどきニヤッとする会話があるのはいいのだけれど、全編にわたってそんな会話ばかりだとさすがに辟易する。おしゃれなつもりなんだろう。

 サスペンスはないし、展開たるいし、この本格ミステリなみの大仰な動機は何なのさ。狙ってた大金を横からかっさらわれたから、取り返しつつ気の遠くなるような復讐をする。真顔でそんなこと云われてもねぇ……。

 舞台もいかにも本格ミステリ好み。伝道師が訪れたことのない「神が忘れた町」。そういう泥臭い舞台設定でハードボイルド&クライムをやろうとしたんだろうけど、大げさな舞台設定がいちいちしらけるだけに終わってしまった。なんでこんな不思議の国みたいなところを舞台にしようと思ったんだろう? 大藪春彦がもっと上っ面だけ気取って書いたらこんな感じになりそうな作品。

 なお、警察署長と市長がベッドを共にしていて……と書かれていて一瞬えっと思わせておいて、実は市長は女だった――という、(当時としては)ジェンダー固定観念を逆手に取ったエピソードで有名な作品でもある。

 何者かの罠に落ち、無実の罪で服役していた元最高裁判事のアデアは、釈放の日に獄中で命を狙われた。自分の首に二万ドルの賞金が懸かっていることを知った彼は、隠れ家を提供するビジネスを行なっているカリフォルニアの小さな町に元弁護士の男と共に逃れる。そして、姿なき敵に復讐する策を練り始めるが、彼の周囲で次々と殺人が……急逝した巨匠の代表作。
-------------

  神が忘れた町
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ