『S-Fマガジン』2006年03月号(通巻599号)2005年度英米SF受賞作特集 ★★★☆☆

「My Favorite SF」(第3回)恩田陸

 恩田陸氏の心の1冊は手塚治虫『ライオンブックス』。かつては「あかずの教室」「マンションOBA」[bk1amazon]がお気に入りだったが、今読み返して印象に残るのは「安達が原」「荒野の七ひき」[bk1amazon]だそうです。『ライオンブックス』はアンソロジーで「荒野の七ひき」「緑の猫」「はるかなる星」「ミューズとドン」を読んだことがあったけれど、あまり印象に残っていなかったので、また改めて読み返してみたい。

「SFサイコサスペンス・アニメ『エルゴプラクシー』の世界」

 WOWOWにはアニメオタクがいるみたいで、どちらかといえば万人向けエンターテインメントというよりはマニアックなアニメを放映することが多いように思います。それだけに質が高い、というのであればよいのですが、以前に鳴り物入りで放映開始された連続アニメ(タイトル忘れた。SFもの)は期待して見たのにしょーもなかった覚えがあります。はたして今回の作品はどうなのか、2月25日の第一回放送で確認してみます。

「SF&ファンタジイ映画最新情報」

 紹介されているのは『日本沈没』[bk1amazon]『時をかける少女』[bk1amazon]『ゲド戦記』[bk1amazon]『ブレイブ ストーリー』[bk1amazon]の四作品。2006年のしょっぱなということもあってか、どれも高ポイント、観てみたい作品ばかりです。

 『日本沈没』だけは実写。主演は草なぎくんと柴咲コウ。作品自体には期待したいのだけれど、最近やけに多い“原作ものの実写映画化”でしかも“リメイク”というところが嫌な予感。またか……という感じで、面白ければめっけものかな。

 原作ものといえば四作すべて原作ものなんですけどね。アニメ化は初とはいえ『時をかける少女』もリメイクっちゃあリメイクです。キャラクターデザインに『エヴァンゲリオン』の貞本義行。掲載されてるスチールを見るかぎりでは作品世界にぴったりかも。屈折してない少年少女の方が貞本氏の画風に合ってるのでは?

 『ゲド戦記』の映画化がスタジオ・ジブリで行われているとは知りませんでした。監督・脚本は宮崎氏の息子さんだそうです。『ゲド戦記』といえば“暗い”というイメージしかないのですが(なんて貧相なイメージなんだ……)、紹介文中でも書かれてあるとおり「映像化できるのは宮崎駿しかいない」というのには深く首肯。でも駿氏じゃなく息子さんなのね。

 上記三作の原作はもはや古典といってもよいでしょうが、いわば新作の映画化が宮部みゆき原作『ブレイブ ストーリー』です。フジテレビとGONZOとワーナーブラザーズがタッグを組んだとかなんとか。もはや大型アニメの声優は俳優やタレントがやるのが当たり前になってしまいましたね。大泉洋松たか子の次にクレジットされてる! ビッグになったなぁ……(感慨)。

「マガジンレーダー」

 小谷真理氏の『星のカギ、魔法の小箱』[bk1amazon]が紹介されていました。前々から読みたかったんだけど買いそびれてる一冊。

「妖精のハンドバッグ」ケリー・リンク柴田元幸

 あたしはゾフィアばあちゃんのハンドバッグを探してる。妖精のハンドバッグ。わが家代々の宝だというけれど、そんなに古く見えない。おばあちゃんが死んだ日、ハンドバッグがなくなった。

 特集第一弾の本編は、ヒューゴー賞ローカス賞のノヴェレット部門を受賞。著者の短篇集『スペシャリストの帽子』[bk1amazon]をお読みになった方ならわかるとおりの、少女の感覚と現実のあわいを取り払ったようなファンタジー。盗賊から身を守るためハンドバッグの中に逃げ込んだ村人たち、というおばあちゃんのほら話を軸に、現実よりもほら話にリアルを感じてしまう少年少女たちを描く秀作。ケリー・リンクならこのくらいのレベルの話をあと百話くらいは書いてくれるだろう。そういう意味では、名作には間違いないけれどインパクトはなかった。

「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」チャイナ・ミエヴィル/日暮雅通

 開封した郵便物がわたし宛てではなかったことに、何分もたってから気づいた。中にはBWVFと称する団体の会議録、差出人のメモ、受取人への手紙があった。その内容はある驚くべき活動に関するものであった。

 “ロンドン”で日暮雅通訳なものだから、SFホームズ・パロディかと思ってしまった(笑)。早とちりでした(^^; ローカス賞ノヴェレット部門を受賞。受け取った手紙や盗み見た日記を読むうちに、徐々にその内容に毒されてゆき、やがてはそれを信じるようになる……。似たようなタイプの話はけっこうあると思うのだけれど思い出せない。こういうパターンの作品の語り手は、たいてい精神の均衡を失っています。読者も一緒にぐらぐらしませう、という幻想小説

英米SF界の動向+2005年度受賞作リスト」細井威男

 ハリポタ・ブームの余波はまだ続いているようです。ヒューゴー賞ローカス賞第一長篇部門、世界幻想文学大賞を受賞したスザンナ・クラークの『Jonathan Strange & Mr Norrell』はぜひ読んでみたいもの。どこかで翻訳してくれることを願ってます。

「宇宙都市グラスゴー巽孝之《世界SF大会レポート》

 世界SF大会レポート。ユーロコンとインタラクション。アイリーン・ガン曰く、カレン・ジョイ・ファウラー論争なるものがネットで持ちきりなのだそうだ。ガンの短篇「What I did't see(わたしが見なかったもの)」がSFなのかどうか、という論争であるらしい。ファウラーといえば白水社の『ジェイン・オースティンの読書会』[bk1amazon]新刊案内を見て読んでみようかなと思っていたくらいだったので、SF作家だったのかと聞いてびっくりした。

「遺す言葉」アイリーン・ガン/幹遙子訳

 没した作家の部屋には、その男の精神が色濃く遺されていた。数々の言葉とともに……。

 ネビュラ賞ショート・ストーリー部門受賞。作家というものが文章を書いて生活をしている以上、言葉こそが作家の存在の証であるといっても言い過ぎではないと思う。遺された言葉というピースが、ひとつずつ組み合わされて作家の姿が構築されるという意味ではなるほどSFであるかもしれない。でも普通の意味ではSFでもファンタジーでもない、(ファンタジー寄りの)普通小説。いかにも作家が選ぶ賞らしい作品ではありますが、かの“異色作家”[bk1amazon]を描いた作品として注目でしょう。

イリュミナシオン 君よ、非常の河を下れ」(第5回)山田正紀

 連載ものなので読んでない。

「Card Room」丹地陽子《SF Magazine Gallary 第3回》

 円環のテーブルで向かい合う少女と老人。右手で散らすカード。左手には隠し持つ一枚のカード(いかさま?)。老人の肩には二十日鼠、カップには星。老人を(あるいは鼠を)見守る白猫。二頭の鹿には雨が降り注ぐ。フォークが刺さっているところを見ると、もしや料理であるらしい。テーブルにはトランプのマークが描かれた巨大なグラス。テーブルの向こう端は地平線。

「広がるデイヴィッド・エディングスの世界」「暗殺者ヴラド・タルトシュの冒険」

 ハヤカワ文庫FTの簡単な作品世界紹介。

「MEDIA SHOW CASE」渡辺麻紀鷲巣義明・添野知生・福井健太・丸屋九兵衛・米田裕

 「大ファンだからリメイクする」とはどういうことなのかをわからせてくれた『キング・コング』。まったく興味がなかったけれど、こういう観点から紹介されると見てみたくなってきました。

 リメイクといえば『アサルト13 要塞警察』。これは単純にストーリーが面白そうだから観てみたい。

 東野圭吾原作『秘密』がフランスで英語版リメイクされるとのこと。紹介者はつまんなそうなこと書いているが、面白そうだと思うけどな。

 『巌窟王』[bk1amazon]がコミック化されたらしい。テレビは見逃してしまったので、読んでみたい。おおひなたごうの新刊『特殊能力アビル EXTRA』[bk1amazon]も出た。

「SF BOOK SCOPE」石堂藍千街晶之長山靖生・他

 ファンタジーノベル大賞辞退、ライブドア初の文芸書、と何かと話題の多い『愛をめぐる奇妙な告白のためのフーガ』琴音[bk1amazon]が出版されていたようです。タイトルにしろペンネームにしろ、いかにもいかにもなので(ちょっと引いちゃいますよね……)、ファンタジーノベル大賞じゃなければ目に留まらなかったかもしれない作品です。「ステレオタイプなものが多くあまり魅力が感じられない」ということなので残念。でも読んでみたい。

 エドモンド・ハミルトン『眠れる人の島』[bk1amazon]がいつの間にか発売されていました。『キャプテン・フューチャー』シリーズの新刊にまぎれて見過ごしていたのかも。セルゲイ・ルキヤネンコナイト・ウォッチ』[bk1amazon]はいかにもモダンホラーっぽいタイトルに伝奇ファンタジーっぽい表紙なのだけれど、内容は面白そうです。

 グレッグ・アイルズ『魔力の女』[bk1amazon]は『ミステリマガジン』先月号[amazon]でも紹介されていた。意外な拾いものなのかもしれない。あとは『イギリス恐怖小説傑作選』[bk1amazon]『日本怪奇小説傑作集』[bk1amazon]といった定番どころ。

 千街晶之評による『向日葵の咲かない夏』道尾秀介bk1amazon]。「作品の雰囲気は乙一の『夏と花火と私の死体』[bk1amazon]や麻耶雄嵩神様ゲーム』[bk1amazon]あたりに近い」ということなので面白そうです。

 長山靖生評による『星のカギ、魔法の小箱』小谷真理bk1amazon]。ブックガイドではあるけれど、「梗概本ではない本物の本の魅力」の詰まった一冊。「本はデータそのものではない。それ自体がひとつの世界である。」という紹介文自体が「ひとつの世界」を形作っているはなれわざ。

「小角の城」(第2回)夢枕獏

 連載ものなので読んでません。

「罪火大戦ジャン・ゴーレ」(第14回)田中啓文

 『ミステリマガジン』2001年4月号のカー特集で、えらいつまらない落語調の文章を掲載していた記憶があるのでぱらっと読んでみたけれど、やっぱり肌に合わない。

「おまかせ!レスキュー」93 横山えいじ

 雪山遭難情報に3号が出動す。

「デッド・フューチャーRemix」(第50回)永瀬唯【第10章 ジュール・ヴェルヌ、ルナティクス 第7射】

 戦争と切っても切れない科学技術の発展。潜水艦の発展に貢献したのはアイルランド独立運動だった。

「私家版20世紀文化選録」87 伊藤卓

 『ナボコフ自伝 記憶よ、語れ』が紹介されていた。

「日本SF全集[第三期]第十四巻 火浦功」18 日下三蔵

 日本SFはまったくといっていいほど読んでいないのでよくわからないのです。

「サはサイエンスのサ」134 鹿野司

 集積回路の微細化は2020年ごろをめどに限界を迎える。つまり、それ以後は今までのようなペースで文明が発達することはなくなるのである、というのはかなり深刻な問題かもしれない。経済にも影響を与えるよなぁ……。

「センス・オブ・リアリティ」金子隆一香山リカ

 地球外生命体の存在を確認するために、恒星間通信を観測するってのは、ロマンなんだかロマンじゃないんだか……。でもレム『天の声』[bk1amazon]ってこういうことなのか、って少し訳知りに。

「楽園」井上裕之《リーダーズ・ストーリイ》

 「今日はやけにサルどもが騒いでいるな」。サトシには、自分がいつから森の中でこんな暮らしをしているのか記憶がない。

 読み終えたあとで作者の名前を確認すると妙に怖くなる。

「近代日本奇想小説史」(第45回 明治の科学小説観)横田順彌

 科学と文学を融合するというのはしごくまっとうな主張なのだけれど、やってることが少々とんちんかんなところが明治らしくてよろしい。

「MAGAZINE REVIEW」〈アナログ〉誌《2005.7/8〜2005.11》東茅子

 『アナログ』誌に掲載された注目作を紹介しているのだけれど、残念ながら食指の動くものはなかった。

「世界SF情報」細井威男

 2005年12月9日、ロバート・シェクリイ逝去。……。ショックだ。

「SFスキャナー特別版」

 チャイナ・ミエヴィル『鉄の評議会』とリチャード・モーガン『マーケット・フォース』。

英米SF注目作カレンダー2004」加藤逸人

 他の欄でも紹介されていたスザンナ・クラーク『Jonathan Strange & Mr Norrell』が面白そうなほかは、ルーシャス・シェパードが復活したというのもチェック。

「チップ軍曹」ブラッドリー・デントン/中原尚哉訳

 最高司令官殿へ。私は言葉の形を思い浮かべ、それを少女に書きとってもらっています。昨夜、私は最高司令官殿の兵士を十八人殺しました。

 シオドア・スタージョン記念賞受賞。アメリカという国は真珠湾でも九・一一でも同じ疑惑に見舞われます。大統領選と世論があまりにも密接にくっつきすぎちゃってるような国では、こういうことが実際にあってもおかしくはないのでしょう。本編の場合は、選挙ではなく軍事費の問題ですが。しかしそんなテーマ以上に、ダイアル大尉とチップ軍曹の絆が心に残る作品です。

「SFまで100000光年」31 水玉螢之丞

 「これ以上は増えないだろうてのが、漢字のありがたいところです。「フラッドウッズ・モンスター」がいつしか(中略)有名になって(中略)も、ソレを示す漢字が作られたりはしないわけで。」「でもアレって(中略)少なくとも「絵に描ける人率」は鵺より高いんじゃないかしらん。」「実在しない漢字と知らない漢字の区別がつかない以上、モスマンもジャッカロープも似たようなもんってことですヨ。」だなんていう面白い視点が楽しめました。
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