『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか 遊ぶ生物学への招待』武村政春(新潮新書)★★☆☆☆

 期待していただけに、所詮は新書、というのがショージキなところ。

 本書でも触れられている『秘密の動物誌』など類書における徹底ぶり、あるいは『空想科学読本』に見られる遊び心・サービス精神が欠けている。

 “どのようなホラを吹くか”と“どのように科学的説明をつけるか”との折り合いは難しいとは思うのだけれど、そこらへんが中途半端。「蜃」の項なんて、“だからなんなの”の極致でした。著者の説明は“蛤が気を吐いて蜃気楼ができる”という俗信と大差がない。「気」を「網」に変えただけ。むしろ「気」の方が信じられるよっ。

 「皿かぞへ――井戸から出てくる皿はなぜ九枚か」なんていう、おそらく誰も考えたことのなかったような疑問を、疑問自体を捏造するような形で考察してゆくあたりは面白い。

 そうかと思えば「ドラキュラ」はなぜ灰になるのか、とか「豆狸」の陰嚢はどのように広がるのか、なんていう、ポピュラーな(?)疑問もあって、これもまあ面白い。むちゃな現象に対する疑問をホラで答えるというような遊び心がある。(蛤の網もホラといえばホラなんだけれど、なぜか蛤の網は楽しめなかった)。

 タイトルにもなっている「ろくろ首の首はなぜ伸びるのか」的な話題が実は一番つまらなかった。「飛頭蛮」「ケンタウロス」「ぬえ」「人魚」「目目連」……どれもこれも生物学的なつじつま合わせに終始しちゃっているから、奇想を楽しむという楽しみ方はできない。著者の説明をふむふむと聞いて、ふうんそうなんだと思うだけ。

 本来は架空の生物誌というコンセプトなんだろうけれど、タイトルが災いして『空想科学読本』的なものを期待してしまいました。『秘密の動物誌』的なものを博物学的にではなく生物学的にやろうというのが本書なのでしょう。だから架空の細胞やら物質やらがぞくぞく出てくる。モンスターを“科学的に考察する”というのを期待していると、この似非擬似科学にはうんざりしてしまう。それでもまだ、架空の物質自体にホラとしての面白さがあればよいのだけれど、大半がつじつま合わせ的なものだから飽きるのは否めない。
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