『三四郎はそれから門を出た』三浦しをん(ポプラ社)★★★★☆

 最初から最後までみっちり書評集だと勘違いして買ったのですがどちらかといえばエッセイ集でした。

 だけどこのエッセイがよかった。

 「少女と乙女の違いはなんだろうか。(中略)『乙女』とは『自己申告制度によって成り立つ概念』である。」という発想がすばらしいです。こういう、普段あんまり気にかけないのだけれど、言われると「おっ」と思わされるような視点があると、すごく得した気分になる。実はけっこう鋭いことが、まるで何でもないことのようにさらっと(ときに笑いに交えて)書かれているのですが、ページをめくるたびにうむむとうならされてしまいました。

 そのことはたとえば、ドラえもんについてのこんな疑問にも感じられました。「『はたしてドラちゃんはどんな感触をしているのか』ということが、気になって気になってたまらなかった。柔らかいのか、硬いのか。あたたかいのか、冷たいのか」。著者が実際に聞いてみたところでは「ツルッとしてるけど、羊羹みたいな弾力がある」「猫そのものの短毛」「ロボットなんだから、硬いに決まっている」などさまざまだったそうです。わたし自身は「ロボットなんだから〜」派でした。何の疑問も感じずに。著者のことばが、「ロボットなんだから」と決めつけていたコチコチの頭をときほぐしてくれます。目から鱗が落ちました。さっそく周りにも聞いてみたくなりました。

 なんにしても、このような視点はエッセイストにとっては最大の強みだと思います。単なる日常雑記でもない。といって奇をてらっているわけでもない。日常から飛び出すひとかけらの(けれど大きな)飛躍に共感を引き起こされました。思わず「そうそう」とうなずきたくなってしまう。

 「『母親』という字を見ると、脳内で自動的に『理不尽』と変換してしまう人も多いと思うのだが」っていう、この言い切りが最高です。わたしの母は「理不尽」な方ではないと思うのですが、それでもなぜか納得してしまう説得力。

 わたし自身の本の趣味が著者とはまったくといっていいほど噛み合わないので、お気に入りの本を見つけるという楽しみ方はできなかったけれど、特に後半の純粋なエッセイにひかれるものがたくさんありました。
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