『ミステリマガジン』2007年02月号No.612【モンスター大集合】★★★☆☆

 今月の特集は【モンスター大集合】。大林監督×石上三登志ゴジラ対談に合わせたものらしい。もはや『ミステリマガジン』でもなんでもない。ヘンな縄張り争いなんかせずにハーラン・エリスンを載っけてくれるのは嬉しいが。 

「恐竜ボブのディズニーランドめぐり」ジョー・R・ランズデール/望月明日香訳(Bob the Dinosaur Goes to Disneyland,Joe R. Landsdale,1989)★★☆☆☆
 ――誕生日、カレンは夫のフレッドに空気でふくらませるビニールのティラノサウルス・レックスをプレゼントした。フレッドは恐竜をふくらませ、ボブと名づけた。すぐさまボブはディズニーランドに行きたいと言いだした。

 いかにもアメリカのカトゥーン的な小品。
 

「いないいない、バア!」ビル・プロンジーニ/望月明日香訳(Peekaboo,Bill Pronzini,1979)★★★☆☆
 ――ローバーは自分以外の者の気配を感じて目覚めた。誰かがこの屋敷にいる。いや、なにかがと言うべきか? 居間、ダイニング、客間、キッチンも裏口も無人だった。地下室じゃないか?

 どうしても器用貧乏というかオタク的というかいう印象をぬぐえないビル・プロンジーニによる、比較的よくまとまっている作品。大傑作というほどではない。『異形コレクション』ピースとでもいうべきか。
 

「男狂いの人喰いアメーバ」ニーナ・キリキ・ホフマン/高橋知子(I Was a Teenage Boycrazy Blob,Nina Kiriki Hoffman,1996)★★☆☆☆
 ――なんでもかんでも食べてしまいたいって思うことない? その夜、あたしは実験室にこもってフェロモンの実験をおこなった。ああ、あのお馬鹿なヴィクときたら、涎を垂らしてあたしに見とれていたっけ。

 設定だけだとシェクリイ「ひる」を裏側から描いたみたいな作品なのだけれど、内容はそんな上品でセンスのあるものではなく、とことんB級。まあこういうB級テイストこそがモンスターものの魅力かもしらん。
 

38世紀から来た兵士ハーラン・エリスン/尾之上浩司訳(Soldier,Harlan Ellison,1957)★★★★☆
 ――クァーロはライフル兵器をかかえて飛び出した。敵の砲列が発した斉射が、クァーロの銃の光線とぴったり重なり、空にまばゆい虹を描き、ショートしあった……そして、クァーロを戦場からワープさせた。

 あの『ターミネーター』の元ネタというだけでも話題性充分なのに、今まで未訳だったのが不思議。とことん不遇な人だ。〈奇想コレクション〉あたりで一冊出てもいいと思うのだが。いや、カラー的には〈未来の文学〉かな。

 そもそも地の文に「ワープした」って書かれているわけだから、何の予備知識もなく読んだ人でも、タイム・ワープものだなとのっけから理解できると思うんだけれど、読者はわかっていても当事者たちはわかっていないというのをきっちり描き込んでいるのがよい。いやむしろ当事者たちのとまどいこそがメインと言える。ある命題に対して、じゃあどうする?の問いが次から次へと現れる――タイム・ワープだなんて極端なものじゃなくても、それは現実世界で誰もが常に直面していることで(くだらない例えを挙げれば、今月は『ミステリマガジン』を買おうかどうしようか?レベルのことでも)――それをこの作品の場合は、「自分が見知らぬ場所にやってきた/未来から人が来た。じゃあどうする?」というのを徹底的にシミュレートしているのが迫力満点なのである。
 

「プラン10・フロム・インナー・スペース」カール・エドワード・ワグナー/尾之上浩司訳(Plan10 from Inner Space,Karl Edward Wagner,1996)★★☆☆☆
 ――手をセーターの下にすべり込ませ、胸を揉んだ。ベティの悲鳴を聞きながら、エルロイはげらげらと笑っていた。やがて、大きなカニのハサミをつけた巨大なクモのような影が、車に覆いかぶさってきた。

 エド・ウッドロジャー・コーマンを知らなくても、どこにでも転がっているC級SF映画を思い浮かべればそれでよい。しかしC級のよくできたパロディはやはりC級になってしまうのだよなぁ……。
 

「特別対談/「ゴジラのテーマ」の知られざる真実」大林宣彦石上三登志
 まあ「知られざる真実」というほどではなくて、古き良き時代の一エピソード。それとも『ゴジラ』オタクにはショッキングなのかね。お二人とも「誹謗ではない」なんてわざわざ繰り返してるし。

 映画にとって音楽は添え物じゃない!という話。しかし印象に残る音楽が少ないのもまた事実。記憶に残っているのって、バート・バカラックとか『靴に恋して』とかくらいかなー。音楽を聴けばそのシーンが目に浮かぶって点では『マレーネ』のダンスシーンとかもそうか。
 

「モンスター翻訳小説30冊」尾之上浩司編
 『キング・コング』や『ジョーズ』を小説版で読んだ人ってのはあんまりいないんじゃないかと思う。「影が行く」は面白かったが。クーンツ『ウォッチャーズ』、ヴォクト『宇宙船ビーグル号』は著名すぎるがゆえにまともに気にしたこともなかったが、あらすじ紹介を読むとなかなか面白そう。
 

「ミステリ・ファンに捧げるモンスター映画10選」小山正
 小山氏も書いているように、モンスター映画とミステリって相容れないような気もするんだけど、のっけから『シャーロック・ホームズの冒険』「這う人」というまさにモンスター・ミステリとしか言いようのない作品を選んでくれる。『トレマーズ』がコージーだというのは無理矢理感がなきにしもあらずだが。あとは去年の〈幻想と怪奇〉特集でも紹介されてた『事件記者コルチャック』とか。『怪奇大作戦』が見てえよお。岸田森が好きなんだ。

 【モンスター大集合】はここまで。
 

「ミステリアス・ジャム・セッション第69回」村崎友

「追悼石田善彦/飲み仲間の死」東直己

 文庫化確実なビッグネームのシリーズものはポケミスで購入していないのですが、今月の新刊はレジナルド・ヒルのノンシリーズ異人館ということで買って読んでみようかと思う。広告ページには扶桑社文庫横溝正史翻訳コレクション』が。渋いよなあ。今買っておかないと絶対手に入らなくなる類の本だよ。ほかに『ミステリの名書き出し100選』とか。『長いお別れ』は村上春樹訳が三月刊行予定で話題だね。春樹訳といえば『ギャツビー』もいまだに買いそびれてるよ……。『キャッチャー』のしょーもないイメージがあるからなー。ミステリ文庫では『夢を見るかもしれない』が『おそらくは夢を』のタイトルで文庫化。『ハムレット』の台詞だからこう訳さないと意味が通じないものね。何気なく広告を見てたら、『あなたに不利な証拠として』が新装カバー(?)なのか? ビニールカバーの代わりに普通のカバーをつけてるのかな? 本屋に行って確かめてこよう。ポケミスは大きな本屋じゃないと置いてないのがつらい。

「ディック・フランシス『再起』刊行」林家正蔵北上次郎
 なんかディック・フランシスの新刊記事ってあまりにも今までよく見かけて見慣れていたものだから、まさか六年ぶりだとは思わなかった。早川書房のどの時代の本を手にしても、きっとフランシスの新刊広告が載ってるよ。新聞では、お馴染み児玉清氏のほか、馬つながりで武豊氏と本仮屋ユイカ氏のコメントが載ってた。しかし馬つながりの推薦文って、新しい読者層開拓に向けてプラスなのかマイナスなのか……。
 

「新・ペイパーバックの旅 第11回=カーター・ブラウンの改訂版の謎」小鷹信光

「日本映画のミステリライターズ」第6回(高岩肇(1)と「パレットナイフの殺人」)石上三登志

「英国ミステリ通信 第98回 「第一容疑者」最終回」松下祥子
 イギリスの人気警察ドラマの話。

「ヴィンテージ作家の軌跡 第46回 1930年代のアンブラー(1)」直井明

「冒険小説の地下茎 第82回 生涯一自由人」井家上隆幸
 水田ふう&向井孝『女掠屋リキさん伝』

「瞬間小説 40」松岡弘一
エデンの園」「予知」「殺す人、殺される人」「ねじれ」「行旅死亡人」「退化か進化か」

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第26回 金子光晴『芳蘭』(中篇)」野崎六助
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第106回 ハードボイルド小説と言い落とし」笠井潔
 そんなこと考えたこともなかったけど、言われてみれば言い落としどころかまったく書かれてないんだもんね。
 

「記念講演「カズオ・イシグロと無限の物語」リポート

エド・マクベイン『被害者の顔』映像化」
 

「今月の書評」など
◆小山氏紹介のDVDはオペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』。岩波文庫レスコーフの『真珠の首飾り』を読んだとき、表題作よりも併録の「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の方が印象に残ったという程度の知識しかないながら、そもそもミステリかよ?という気もするのだが、まあケインの『郵便配達夫〜』はミステリなのだからこれもミステリとは言える。

◆映画では『ラッキーナンバー7』。「あっと驚く意外性に満ちたトリックがあるわけではないが、試行錯誤を繰り返してパズルのように綿密に組み立てたプロットが生きた」。こういう話の方がどう考えても面白い。

クリフォード・チェイス『ウィンキー』。表紙を見て絶対ホラーだと思ってた。前島純子氏も「かなりキモイ」と書いてます(^^;。作者本人のテディ・ベアだったんだ……。

◆迷わず買っているジーヴスものの新刊ウッドハウス『サンキュー、ジーヴス』。まだ読んでないんだけれど、杉江氏によれば「感動した」ということなのでこれまで以上に期待大。

◆国内作品は『密室と奇蹟 J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー』、山口雅也『ステーションの奥の奥』〈ミステリーランド

小玉節郎「ノンフィクションの向う側」◆
 『グルメバトル』

◆風間賢二「文学とミステリのはざまで」◆
 テリイ・サザーン『ブルー・ムービィ』。内容どうこうより、「テリイ」という表記で早川書房の出版物だとわかってしまう自分に苦笑い(^^;。
 

「隔離戦線」池上冬樹関口苑生豊崎由美
 『本格ミステリベスト10 2007』は買って読んでいるはずなのに、タイトルだけ見てどうせカーの出来そこないみたいな話だろうと気にもしていなかった『魔王の足跡』が、豊崎氏によれば「あらあら、面白うございましてよ」なのだそうだ。
 

心理的瑕瑾物件」真梨幸子(連作短篇『ふたり狂い』第3回)

「絞首人の手伝い」(第七回)ヘイク・タルボット/森英俊訳(The Hangman's Handyman,Hake Talbot)

「夢幻紳士 迷宮篇 第12回最終回=“女”(たち)」高橋葉介

「翻訳者の横顔 第86回 苦し楽しい翻訳の道」北野寿美枝 菊池光氏のお弟子さんにして『再起』の翻訳者。
---------------------

  ミステリマガジン 2007年 02月号 [雑誌]
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ