『サウンドトラック』(下)古川日出男(集英社文庫)★★★★☆

 どうなることかと思った上巻も終わり、下巻を読み始めたらめっぽう面白いので助かった。不自然な文体もいつの間にかなくなっている。

 もはやトウタの話でもヒツジコの話でもない。二人とも狂言回しに過ぎなくなっている。もちろんレニの話でもピアスの話でもクロイの話でも居貫の話でもなく、雑多な人間が集まって完成した東京の話。たまたま話はトウタたちの生い立ちからスタートしたけれど、東京にとってはトウタもその他1でしかない。

 上巻を読んだ時点では、時折り挟み込まれる雑多なエピソードが面白いとしか思っていなかったけれど、読み終えてみればエピソード(挿話)だけからなる作品だったんだね。人が集まれば町ができるように、挿話が集まれば町の話ができあがる。

 (古典的な)「物語」からスタートして、気づけば「挿話集」になっていた。作品が完成に向かうにしたがい、物語は解体してゆく。

 それは同時に、トウタとヒツジコの問題だと思っていたものが、東京の問題・世界の問題へと姿を変える過程でもある。一人の個人の問題から始めて、やがて世界と対峙させるのには、こういうやり方もあるのかと感心した。

 内容自体はやはり『コインロッカー・ベイビーズ』であったり『AKIRA』であったり『スワロウテイル』であったりするわけだけれど。

 難点を言えば、最後がねぇ。著者は『ユリイカ』自作解説で、これがリアルなんだ、みたいなことを言ってるけど。そもそもリアリズムなんか目指してないくせに(^^)、リアルじゃないという批判に対するそらっとぼけたエクスキューズだよね。リアルかどうか、とか、物語がオチてるかどうか、ということとは関係なく、安手のテレビドラマのラストシーンみたいなセンスのなさがマイナスなのでした。

 かつて母親に殺されそうになり、継母からも拒絶されたヒツジコは、世界を滅ぼそうと誓う。見た者の欲望を暴走させるダンスを身につけた彼女は、自身の通う女子校で、戦闘集団「ガールズ」を組織する――。一方トウタは、友人レニの復讐を手伝うため、東京の地下に住む民族「傾斜人」の殲滅を決意した。トウタとヒツジコの衝動が向かう先とは……。崩壊へと加速する東京を描いた、衝撃の長編小説。(裏表紙あらすじより)

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