『最後から二番目の真実』フィリップ・K・ディック/佐藤龍雄訳(創元SF文庫)★★★☆☆

 ディック作品にはまるっきり人間味がありません。ディックのテーマからすれば当然――というより、もともとそういうオカシナ感性の持ち主だったからこそそんなテーマばかりを描いたんじゃないかって思えてきます。ディック作品を読んで思い浮かべるディックって、なんか平気で人を殺しそうでかなりコワイんですよね。。。まあ乾いてるのでさらっと読めますが。

 もう一つ思うのは、今のSF映画ってディックからまったく進歩してないなあということ。だから決して悪い意味じゃなく映画のノヴェライズを読んでいるみたいにすらすら読めちゃいます。

 本書は、まるでSFとは思われない、アイデアに詰まった小説家の苦悩みたいなシーンから幕を開けます(^_^;。で、それは何かというと、地下の庶民をだまくらかすためにでっちあげた架空の独裁者用の原稿なのです。

 連絡口を遮断し、偽の情報を流し続けることで、とっくに終わった戦争が続いているかのごとく搾取するというメインのアイデアは素晴らしく、現在新たにこの設定を使ってもきっと面白い作品ができることでしょう。せっかくのアイデアなのに、本書では世界設定の照準がイマイチ合っていないため、アイデア倒れになってしまっている感があるからです。

 何しろ予知能力だの器怪だの時間遡航だの、途中からは何でもありの世界になってしまうのです(^_^;。こういう無茶苦茶な内容をシリアスに書くのがディックらしいっちゃらしいのですが。ハラハラしながらもニヤニヤ。

 世界を二分して終わりなくつづく核戦争。地上を汚染する放射能をのがれて人々は無数の巨大な地下塔にひとみ、苛酷な生活を送りつつ戦闘用ロボットの生産に追われている。ときおり地上の模様が上映されるが、戦争は帰趨を決する気配もない――だが、これはすべてまやかしだった。戦争は10年以上前に終結しており、少数の特権階級の支配する世界ができあがっていたのだ。新訳決定版。(裏表紙あらすじより)
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