『レベッカ(下)』ダフネ・デュ・モーリア/茅野美ど里訳(新潮文庫)★★★★★

 おおお! まさかこんな展開になるとは。急展開だなあ。

 レベッカの人物像も上巻から比べるとぐっとくっきりとしてきました。どちらかといえばこれまで作品全体を覆っているのはレベッカの影というより語り手の劣等感の跳ね返りみないなものだったんだけれど、ここにきてレベッカ本人が浮かび上がってきます。語り手がレベッカの呪縛から逃れたのとは裏腹に、読者にはレベッカの人物像が今まで以上にくっきりと焼き付けられるという構成がニクい。

 そしてレベッカの亡霊の呪縛から逃れた途端に迫ってきたのは現実的な危険というところも上手い。驚くほどにミステリ度が高くなります(カバー裏のあらすじはネタバレしてるから読んじゃ駄目です)。新事実が明らかになってからはまさに怒濤の展開、それまでのじわじわと真綿で首を絞めるような重苦しさから、スピード感のあるサスペンスに様変わりです。

 そこで出てくるジュリアン大佐という人物がまたいい味を出してるんです。厳しすぎず優しすぎず公正(でもないんだけど)で冷静な、父親的な人物。この人のおかげで、サスペンスが下品にならずに節度を保っている。読んでいるわたしもどきどきしながらも、先が知りたくて読み飛ばしてページをめくるのではなく、じわりじわりと噛みしめながら読み進められる。

 だからこその、このぽっかりと穴の空いたような読後感です。序盤のハイスピードから、徐々に徐々にまた重たげで不安な空気が甦ってきて、そして静かな衝撃。その余韻に浸るような、静かなラスト。

 かっこよすぎます。面白すぎます。

 もちろんベタなんだけど、だから面白いっていうタイプの作品なんですよね。代表作なだけありました。
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