『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』小川未明/東雅夫編(ちくま文庫)★★★★☆

 童話作家以前の未明を、ということではあるけれど、第一部は「幼年期の幻想」作品だからでしょうか、童話っぽい作品が多い。そのなかでは巻頭の「過ぎた春の記憶」が大傑作。読み終えてみればある型の怪談なのですが、それをこういう視点から語られると新鮮でした。「かくれんぼう」と来れば反射的に神隠しだと思ってしまいましたが、そうではありません。井戸に隠れ、また出てくることで別の次元への通路を通ってしまったという、これも一つの型が、かくれんぼうを通してごく自然に導かれている点にまず嘆息。しかも幽霊の目撃譚で不安感をあおると同時に、「幽霊」の方に読み手の意識を引きつけておいて、最後にぐわんと実は「そっち」の話だったと明かされる点に驚愕。タイトルが地味なのがもったいない。

 第二部は「土俗的な妖異の物語」ということですが、どちらかといえば「土俗」の方に力点が置かれているようです。怪談風なのは「抜髪」くらいでしょうか。第一部の「不思議な鳥」も内容からいうと第二部系。不吉な鳥が厄災をもたらすかと思いきや、かえって何も変わらない人生模様が浮き彫りになるしみじみ譚。「点」は牧師の狂気が怪談といえば怪談だけれど、これも人生の不思議を描いたような作品。タイトルの意味も、狂気といえば狂気なんだけれど、それ以上にはっとさせられます。「抜髪」は、これはいったい何なんだろう。初めから妄想なのか、実は歳月が経っているのか。

 第三部は「比較対照の意味で中盤に据えた」童話。「赤い蝋燭と人魚」「金の輪」など、これは言うまでもないでしょう。

 第四部は「泰西世紀末芸術やスラヴ浪漫派文学の影響を色濃く湛えた怪奇物語の数々」。「薔薇と巫女」は巫女伝説をめぐる幻想譚。「黒い空」は夢文学なのかプロレタリアリアリズムなのかわたしには判断しがたい。「悪魔」は都市伝説風の黒い男の噂を軸に、「悪魔」に襲われた村の話。飽くまで都市伝説だった黒い男が実体を持って現れたのが「僧」とも言えるでしょうか。一人死に、二人死に……実に見事な怪談です。

 第五部はエッセイ。「面影」はハーン先生(文字どおり先生として教わっていたのです)の思い出。
 --------------

  『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ