『八一三号車室にて』アーサー・ポージス/森英俊編(論創社)★★★☆☆

 『In Compartment 813』Arthur Porges。

 アンソロジーで読んだエラリー・クイーン・パロディ「イギリス寒村の謎」が面白かったので期待していたのだけれど、パロディほどハメを外してくれてはいないのが残念。

 「銀行の夜」はリッチーのようにスパイスの利いた犯罪計画、「完璧な妻」スレッサー風お手本のような落とし噺、絶対音感は誘拐犯の居所を探る謎解きサスペンス、「八一三号車室にて」のあからさまな読者への手がかりなど、器用に楽しませてくれる作家です。

 だけど「跳弾」「冷たい妻」といった倒叙「平和を愛する放火魔」「ひ弱な巨人」など後半に収録されたトリッキーな謎解きものになると、せっかくの奇天烈な謎やトリックが単なる種明かしに留まってしまい、どうしてもこぢんまりとしてしまうのは否めません。

 「賭け」の謎なんてとびっきり魅力的なんですが……力を加えずに放した振り子は、(空気抵抗や摩擦がある以上は)元の場所に戻ってくることはあり得ないにもかかわらず、振り子を放した実験者は頭を振り子に割られて死んでいた……。

 「ひ弱な巨人」にしたって、タイトルからしチェスタトンみたいじゃないですか。凶器は四十キロの巨大なコンクリート、唯一の容疑者は小柄な人間……ここはチェスタトン流の逆説で説き明かしてもらいたかったというのは、贅沢な注文なのかなあ……。

 ミステリよりもむしろホラー作品にいいものがありました。水たまり恐怖症の少年といじめっ子を描いた「水たまり」は傑作。子どもの日常を描いた世界から、不意にホラーに落とされてしまいました。「ひとり遊び」は、想像ごっこでひとり遊びする女の子。この手の作品は傑作になるか駄作になるかのどちらかだと思う。「フォードの呪い」は、自動車に襲われたと主張する老人の打ち明け話。老人の話自体はよくある〈狂った車もの〉なんだけれど、これも最後の最後にぞっとさせられます。
 -----------

  『八一三号車室にて』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ