『ユーロマンガVol.1』(飛鳥新社)

 BDの邦訳漫画雑誌。こういうのには疎いんで、それこそ『タンタン』とか、あとは集英社文庫版ヴェルヌのカバー画メビウス国書刊行会レム・コレクションのカバー画シュテイン&ペータースくらいしか知りませんでしたが、アートっぽいイメージで面白そうなので試しに購入。

 飽くまで「雑誌」(?)なので、本書には連載第一回目を収録。続きは次号――です。

「スカイ・ドール」カネパ&バルブッチ

 この回だけを読むかぎりでは、セクサロイド狂言回しに描かれる、カリスマ宗教家たちの争い……といったところでしょうか?

 日本の漫画とアメコミのオタクっぽいところだけを抽出したようなキャラクタライゼーションに、全身がもぞかゆくなってしまいました。とはいえ収録作のなかでは現代日本の漫画に一番近い絵柄なので取っつきやすいと判断されたのでしょうか、巻頭・カバーイラストのうえカバータイトルも一回り大きい。吾妻ひでお(だったかな?)の漫画で見かけたようなキャラも登場しますし。

 絵や色遣いはきれいだけど、絵もストーリーもかなり漫画チックです。きれいだけど「きれいだなあ」って魅入ったりするのとはちょっと違います。

 日本のアニメを初めて見た著者のカルチャーショック体験記にカルチャーショック。そうかなるほどなあ。大げさでなく「事件」だったんですね。
 

「ラパス」マリーニ&デュフォー

 謎の連続殺人を追う刑事……だがそれは吸血鬼(?)による吸血鬼狩りだったのだ。。。

 これは絵もぐっと濃ゆくなって、いかにもあっちの漫画っぽい作品です。日本の漫画に慣れていると、ものすごい雑な線に見えちゃうんですけど、まあ違うんでしょうね。明らかに現代が舞台なのに、吸血鬼たちだけはお前らいつの時代のどこの世界の人間だよ的な衣装がたまりません。

 漫画ならではの表現というよりはわりと映画的な感じなので、これはそれほど違和感なく読めました。
 

「ブラックサッド3」ガルニド&カナレス

 動物の姿で描かれたハードボイルド。黒猫探偵ブラックサッドのかつての恩師は、原子力爆弾の開発に携わっていたが……。

 惜しい! いやわかるんです。動物キャラの漫画で主人公だけは人間っぽくかっこよく描かれているというのはよくありますから。でも著者とわたしの「かっこよさ」に対する感性が違いすぎました。。。ブラックサッドのビジュアルって、アメコミのマスクマン・ヒーローな感じなんです。これはかっこわるい! ストーリーはハードボイルドだし、絵も上手いだけに、もったいない。(アメコミなど読み慣れてる人は気にならないのかもしれませんが)。

 絵はほんとうに上手いと思います。それぞれの動物がちゃんとその動物らしく描かれているうえに人間らしい表情も豊かだし、さらには一匹一匹がまったく違うキャラとしてきちんと描き分けられています。百人の人間がいれば百通りの顔がある。現実では当たり前ですが、絵でそれを実行できる画力の持ち主というのはそうはいないのではないでしょうか。

 鰐キャラが鰐皮(?)ブーツを履いているのには笑いました(^^)。
 

「天空のビバンドム」ニコラ・ド・クレシー

 アザラシに知性を植えつけようとした教授たちのプロジェクトの顛末は……。

 本書のベストでしょう。何よりもまず、A4サイズの判型なのに、それでもまだ小さく思えてしまうほどの緻密さと迫力に圧倒されます。それでいてうるさくない温かいタッチ。写実とデフォルメの描き分け。光と影。モノクロのなかの色彩。ペン画タッチと塗り画タッチ。それがあるいはページごと、あるいはコマごと、さらには一コマのなかで共存していたりさえするのだから、ためいきが出てしまいます。

 それから、アザラシに二足歩行させる際の発想も新鮮でした。初め登場したときにはアザラシなのか何なのかもわからなかったのですが、わかってみるとああそうかもな、と納得。
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