『θ 11番ホームの妖精』籐真千歳(アスキー・メディアワークス電撃文庫)★★★★☆

 帯の紹介文に書かれた「ハードSF」という言葉に初めはピンと来ませんでしたが、改めて思い返してみれば、なるほど確かにすべてが理詰めです。例えば、かめはめ波を押し戻されて、それを「波〜!」の気合いだけで押し返すというような、強引なシーンはありませんでした。

 何より「鏡状門」という設定が、単なる〈ワープの存在する世界〉を構成する技術にとどまらず、作品そのものにとって重要なキーにもなっているところがよかったです。あとは、サイボーグやAIをはじめとした機械やコンピュータの原理自体は現実世界と同じということになっているらしいので、その特徴や限界をきちんと踏まえた展開もよかった。いろんなところで「おお!なるほど」と小さく驚いて、知恵を絞って不可能を可能にする怪盗ものを読んでいるみたいな面白さがありました。

 癖のあるですます調の一人称なので、読み始めたときには不安でしたが、読んでいるうちにけっこう慣れてくるものです。そのうちあまり気にならなくなりました。

 空中にぽつんと11番ホームがあってそこにT・Bがいる理由をはじめ、事件の背景もけっこうシリアスなのですが、義経やミス西晒湖との掛け合い漫才がわりと雰囲気を壊さず無理なく溶け込んでいて、普段あまりライトノベルを読まないわたしでもこそばゆい思いをせずに読み通すことができました。イラストの制服もちゃんと制服っぽくてかっこいいし。T・Bって名前も、『さようなら、ギャングたち』のS・B(ソング・ブック)みたいで好きです。

 東京駅上空2200mに浮かぶホームには、銀の髪と瑠璃色の瞳を持つ少女と白い狼が住んでいる。彼らは忘れ去られた約束を信じて、今日もその場所で待っている。

 ――high Compress Dimension transport(高密度次元圧縮交通)――通称C.D.

 「鏡色の門」と鋼鉄の線路により、地球の裏側までわずか数時間で結ばれる時代。春の穏やかな午後、東京駅11番ホームに響き渡る突然のエマージェンシーコールが事件の始まりを告げた……。銀色の髪の少女T・B、野菜嫌いの狼・義経、そしてクールなAI、アリスが繰り広げる、ハードSF&のほほんストーリー!(カバー袖あらすじより)
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