『お岩 小山内薫怪談集』小山内薫/東雅夫編(メディアファクトリー・幽BOOKS)★★★☆☆

 新聞連載を活かし、一日分を見開きに収めた造本になっています。

 解説によれば、歌舞伎『東海道四谷怪談』とは別系統の『四谷怪談』小説とのことで、『四谷雑談集』〜講談系の四谷怪談を英訳紹介したアメリカ人の作品の、事実上の翻案に近いもののようです。

 筋や人物設定にブレがあってほとんど無茶苦茶なのは新聞連載だからだと思っていたのですが、そもそもが近代小説ではなかったんですね。。。あらかじめそれを知ってから読まないと、なにせ登場人物の性格が定まらず筋の一貫性にも欠けるので、どこが「『四谷怪談』を一つの家庭悲劇として写実的心理的に取扱っ」た作品なのかと思っちゃいます。

 初めのうち岩は生まれながらの不具で性格も悪く化物みたいに描かれていたのに、途中から心根は優しいということになっているし(それが愛情ではなくお家のための慎ましさだった、と途中からは変わりますが)、伊右衛門も野心があるんだか愛情があるんだかヤケになったんだか残酷なんだかわかりません。

 とはいえ、全体のまとまりこそ弱いものの、場面場面ではけっこう面白い人間模様が描かれていました。たとえば伊右衛門(数馬)が婿養子になるにあたってのそれぞれの事情が、かなり詳しく書かれており、怪談というより厭な社会小説みたいで不気味なものがありました。

 伊右衛門じつは親の仇、という設定が、お岩の復讐とはあまり関係なく(というかそれも霞んでしまうくらいただただどろどろしているのです)、むしろ伊右衛門のお裁きの方の伏線になっているのも面白い点でした。

 結局、場面ごとに違う作品をくっつけて一つにした、と思って読んだ方がいいでしょう。まあ実際いろんな種本が混じっているのでしょうから、実質上リレー小説みたいなものです(?)。

 後半になるともはやお岩の祟りでも何でもなく、ただただ登場人物の大半が連続死する残酷ホラーがだらだらと続きます。ここらへんは著者の幽霊観が出ているのか、幽霊らしきものは出てくるものの岩という個人の存在感は希薄で、みんなが勝手に狂い死にしていく感じでした。その死に様(殺し様?)たるや悪魔も真っ青の徹底ぶりで、ほとんど無関係の人までが血みどろの被害にあっていて、怖いというより感覚が麻痺してしまいます。鼠とか首ちょんぱとか、けっこうトラウマものの残酷死はあるのですが――。

 全体的に「厭」な小説でした。

 怪談演劇論と怪談実話集を併録。『ハムレット』を怪談として論じていたり、人が幽霊を信じているところに幽霊もののリアルさの原因を求めていたり、へんてこなところはありますが、怪談は叙事詩にはなっても劇詩にはなりにくい、といった興味深い指摘もある演劇論です。
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