『ハロルド・ピンター1 温室/背信/家族の声』ハロルド・ピンター/喜志哲雄訳(ハヤカワ演劇文庫23)★★★★☆

 続・ハロルド・ピンター全集とでもいうべき、後期戯曲集が演劇文庫から全3巻で刊行。全集も文庫化してほしいなあ……。
 

「温室」(The Hothouse,Harold Pinter,1980)★★★★★
 ――病院とおぼしき国営収容施設。患者6457号が死に、6459号が出産していたという報告に、怒れる最高責任者は職員らを質す。だが事態は奇妙な方向へ……全体主義の暴力を描く『温室』。(カバー裏あらすじより)

 『Monster』みたい。解説に記された著者の特徴からすると、読み直してみてもおそらく伏線などがあるタイプの作品ではないのでしょう。

 初めのうち、責任者ルートと部下のギブズの会話はどちらが正しいのかわかりません。ルートが本当に覚えていないのか、それともギブズが「おちょくってるのか」。患者の特徴についてのやり取りで、ギブズがおちょくるような返答をするのだからなおさらです。それでも徐々に判断材料も出てきて、やがて別の(第三者、と呼べるかどうか?)人間によって判断事実は補強されていきます。ところが事実が明らかになったらなったで、その反面で人間の方が怪しくなってきて、どんどん事態は混沌へ。
 

背信(Betrayal,1978,1980)★★★☆☆
 ――陳腐きわまりない情事の顛末を、時間を逆行させて語り強烈なアイロニーを醸す代表作『背信(カバー裏あらすじより)

 時間を逆行させる、という肝心の構造が、三十年のあいだにかなり色褪せてしまったのは否めません。舞台を見るのならまた違うのかもしれませんが、戯曲を「読む」のであればもっと複雑なくらいの方がいい。
 

「家族の声」(Family Voices,1981)★★★☆☆
 ――「僕は今とても楽しい。母さん、僕がいなくて淋しい?」「ねえお前。どこにいるの? なぜ手紙をくれないの?」

 ラジオドラマ。タイトルに「家族」とはあるものの、登場する三人が一家族なのかどうかすら厳密にはわかりません。別々の三家族の話が、たまたま一致しているように聞こえる、という可能性も、可能性としてはないわけではありません。なにせ話は微妙にずれているのですから、ズレではなく一致の方が偶然かも。声一はどうやら騙されてるし、声三はどうやら死んでるしなあ。
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