『天国への階段』(A Matter of Life and Death、1946年、英)★★★☆☆

 マイケル・パウエル監督。デヴィッド・ニーヴン(ピーター・D・カーター)、キム・ハンター(ジューン)ほか出演。

 英軍爆撃機パイロット・ピーターは、敵機の攻撃を受けてパラシュートなしで飛び降ります。当然ながら死ぬはずだったのですが、霧が濃かったために天国の使者がピーターを見失ってしまい、天国まで連れていくことができず、ピーターは死から一時的に免れることができました。飛行機から飛び降りる直前に通信していた米国軍無線士のジューンと恋に落ちたピーターは、天国に行くのを拒み、天国に対し抗告を試みます。天国の話を信じられないジューンは、旧知のフランク医師に相談し、ピーターの手術が決まります。一方抗告が認められたピーターですが、弁護士が決まらず苦悩するのですが……。

 あらすじ自体はどうということはないのですが、テクニカラーのきれいな色合い、カラーの現世とモノクロの天国を対比する表現、クライマックスで天国の人々が段になって並ぶ舞台装置のような天国の階段ヤコブの梯子?)、など、映像的に見どころのある作品でした。

 冒頭でジューンと無線で話すピーターが「今度会いに行くよ。幽霊は嫌いかい」と口にするのは、死を覚悟しているからこそのカラ元気の冗談なのですが、タイトルがタイトルなので見え透いた台詞に聞こえてしまい残念です。(実際には「幽霊」ではなかったのですが。)

 飛び降りたピーターが砂浜で歩きながら飛行服を一つ一つ脱ぎ捨てて行くシーンは、ありがちだけれど名シーンです。現実的に考えると何が起こるかわからない状況で脱ぎ捨てるなんてあり得ない――と無粋にも思ってしまったのですが、これはあるいは、自分が死んで天国に来たのだと思ったから身軽で気楽に歩いている、ということなのかもしれません。

 実際、そこには牧童らしき笛を吹いている少年がいるのですが、なぜか全裸。めちゃくちゃ天国っぽい(^_^;。実はイギリスだったわけですが。

 一方、天国は戦死した兵士たちで賑わっています。お国ネタっぽいところもあるのですが、わたしの場合、制服で国の違いを見わけられないので、ここらへんの面白さをちょっと損してる感じです。

 天国の使者は革命で処刑されたフランス貴族。フランスにはあんな深い霧はないから見失っても仕方がない云々と言い訳したり、やたら恋愛話に反応したりする定番ジョーク。これはわたしでもわかる。

 天国の裁判シーンでは、またもや各国人が入り乱れています。検事は独立戦争で英軍に殺されたアメリカ人。陪審員アイルランドやロシアやイギリス植民地など、英国人であるピーターには不利な人ばかり。このあと弁護人の抗議によって陪審員が全員現代のアメリカ人に交代するのですが、それぞれ(恐らく)アイルランド系のアメリカ人・ロシア系のアメリカ人・インド系のアメリカ人・中国系のアメリカ人というのがミソでした。時代の変化とアメリカというお国柄といがみ合いの無意味さが端的に表された場面でした。傍聴人にも各国人が勢揃いなのですが、これもわたしにはわかりづらかった。

 現世に話を戻すと、ピーターから天国の使者の話を聞いたジューンは、心配になって医師に相談するのですが、この医師というのがちょっと変わり者。自宅に展望鏡のようなものを設えてテーブルをスクリーン代わりにして村中を映して眺めています。本人曰く、村人の健康を確認するため……だそうですが。なんだかあんまり映画のなかでは意味のないシーンだった気がするのですが、これはやっぱり「変人」という道具立てだったのでしょうか。よくわかりません。まあバイクにまたがり軍隊のジープを追い越すし、雨の中バイクを急がせ案の定なことになってる人なので。

 出番から言ってもストーリーの関わりから言っても、このフランク医師こそ主役といっていいくらいの活躍でした。小さなことでいうと、チェスの本。あの世の唯一の証拠として活用されていました。もちろん弁護人としても大活躍。それで思い出したけれど、アメリカ人検事とイギリス×アメリカ口げんか対決した際に、アメリカは戦争中にこんな馬鹿なことやってる、と言って流したラジオがアホっぽくて面白かった。

 それと、フランク医師は天国の使者を幻覚だと思い、ピーターに脳手術をおこなおうとするのですが、これがちょっとわかりづらかったです。初めに診察したときに「頭痛は半年前から」とピーターが言っていたので、幻覚どうこうとは別に、以前から実際に頭に疾患があったということらしいです。それで疾患が取り除かれると同時に、天国の裁判でも勝訴して、ピーターは死なずに済む、という設定なのですが。幻覚だと思ったから手術するはずなのに、使者が現実だとわかっても手術するというのが、どうも腑に落ちませんでした。

 その他覚書。ピーターとフランクが初めて会うカフェかどこかで『真夏の夜の夢』の準備が進められていたのですが、そういえばこのフランス人使者って妖精パックっぽいな、と思ったりもしました。
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