『東遊記 四遊記1』呉元秦/竹下ひろみ訳(エリート出版)★★★★☆

 なんだこりゃ(^_^;。内容よりもまず造本に目が行ってしまします。奇っ怪な本です。キッチュというか、パンクというか。現代日本の出版物だとは思えません。

 機械翻訳で吐き出したような日本語の煽り、キャプションも付いていない意味不明な口絵、へたれなカット、どこを読んでも窺い知れない出版方針……。

 ものすごく嫌な予感を感じながら読み始めたのですが、意外なことに、本文はまともでした。

 ただし、どういったテキストをもとにどう訳したのかがまったくわからないので、完訳なのかどうかも不明です。唯一わかるのは底本が『四遊記』の合刊らしいということで、この合刊を、内容はまるごとそのままで分冊刊行する契約でも結んだということなのでしょうか。そもそもその底本が、原本そのままなのか、ダイジェスト版なり翻案本なのかもわからず。『西遊記』だけは漫画版ということですが。

 八仙の活躍や失敗がエピソードごとの連作形式で語られてゆきます。

 李鉄拐が仙人をめざすところから物語は始まります。魂だけになって天界に行っているあいだに、肉体を焼かれてしまったため、その後は片足で鉄の杖をつくようになりました。仙術を使って人を助けたり、人を仙人にしてやろうと他人をいろいろ物色して布教勧誘みたいなことも……。

 鐘離権は武将だったのですが、鉄拐に仙人の才能を見出されたために、戦争に負けさせられてしまいます。とはいえ仙人たちときたら戦ってばかりいるので、元武将の才能がことあるごとに発揮されることになります。

 藍采和、張果老何仙姑についてはちょろっとしか筆が割かれていません。張果老は老人だし、何仙姑は女なので、それだけで充分にほかの仙人と区別がつきますが。藍采和はぼろっちい恰好をしていて、踊りを踊り、予言の歌を歌うらしいのですが、本書のなかではあまり目立ちません。

 呂洞賓は鐘離の弟子。仙人の試験にも立派に受かったし、剣を持ったなかなかかっこいい姿で描かれるのですが、実は酒好き・女好き。いろいろな場所に出没していろいろな痕跡を残していきます。

 ところがほかの八仙からからかわれたせいで、人間界の戦争に干渉し、師の鐘離と戦うことに。洞賓が配置する戦いの陣は、まともそうなものからオカルトめいたものまでさまざま。なかでも、妊婦を埋めて敵方の精神を吸い取るという迷魂の陣が頭抜けて怪しい。

 ここで鉄拐が大激怒。ほかの仙人がなだめて何とか事なきを得ます。

 韓湘子は韓文公(韓愈)の甥という設定の笛の名手。曹国舅は、七仙そろったあとで「あと一人どうしよう」といった数合わせ的な扱い。

 そして、ここからがようやく「東遊記」です。東海で波乗りしていた八仙を、海底から見上げていた龍王が、きらきら光る藍采和の拍子板を奪ったことから、龍王一族VS八仙&仙友の決戦の火蓋が切って落とされるのです。仙人とは思えない気短かっぷり、仕返しっぷり。

 ここで八仙がそれぞれの得意技を駆使して――という展開にはならずに、戦い自体はわりと大雑把なのが残念なところでした。最後はなぜか観音が丸く収めて幕。

 龍王との対決はちょこっとしかありません。わたしは中国の仙人についてまったく知らなかったので、人物紹介のエピソードも充分に楽しめましたが、ある程度の知識がある人には、物足りないかも。

 巻末付録(?)に『東遊記』の漫画版が収録されています。ただしこちらは機械翻訳のような日本語なので、期待はしない方がいいです。本文には描かれていないエピソードや、異伝が描かれていたりしているのですが。
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