『ウィーン五月の夜』レオ・ペルッツ/ハンス=ハラルト・ミュラー編/小泉淳二・田代尚弘訳(法政大学出版局・叢書ウニベルシタス948)

 未完・未発表・初期作品(小説・エッセイ)を集めた死後出版をまるごと翻訳。出版社が出版社なので学者さんの翻訳。

「自由な鳥」(Del Vogel Soliär,1920/1922)
 ――パリの国立古文書館に黄ばんだ一枚の紙片がある。「市民ブールボットよ! 船長のバルナッソーに気をつけろ。私は彼を信用していない」……。このバルナッソーとは軍艦「アンビュスカード」の艦長だった。あるとき艦長は、海賊あがりの「バルサム」をクラブで目撃した。グラックスという名で推薦状をもらっていたバルサムは、ラロシュ=ベルナール村を巡回する任務をさずかった。村はパリから議員が巡回に来るという噂でもちきりで、やがて昔の話に花を咲かせた。ドゥ‐トルモンを決闘で殺した貴族フォン・ラロシュ=ベルナールは今では行方不明になっており、肩を持つものもいたが、大方は貴族というものを憎んでいた。やがて「議員」が現れ――。

 未完でなければ長篇になっていたであろう作品の冒頭部分です。革命期のフランスを舞台に、さまざまな立場の人々が絡み合う。中央から離れた「革命」。元貴族で恋愛沙汰から問題を起こし、姿を消して海賊になって、革命後は正体を隠して故郷に復讐を誓う――というモンテ・クリストばりの波瀾万丈の幕が切って落とされそうなところで断絶……という殺生な作品でした。
 

「ウィーンの五月」(Mainacht in Wien,1938)
 ――オーストリアナチスドイツに併合され、非アーリア人のゲオルクも仕事を馘首になり、逮捕拘留された。やがて釈放されたものの、身の危険を感じ、友人たちと国外亡命を計画するが……。

 こちらも同じく未完の長篇の冒頭部分。これもまた国外に脱出できるかどうかという殺生なところで断絶。。。

 ほかに短篇「軍曹シュラーメク」「月を狩る」、紀行「最後の十字軍」などが好みでした。

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