『バルタザールのとっぴな生活』モーリス=ルブラン/竹西英夫訳(偕成社アルセーヌ=ルパン全集別巻2)★★★☆☆

 『La vie extravagante de Balthazal』Maurice Leblanc,1926年。

 天涯孤独のバルタザールは、平穏な毎日を人生哲学として、同じく孤児のコロカントを秘書に置き、ご婦人たちに「日常哲学」の講義をして暮らしていた。ところが教え子の一人である令嬢ヨランドに告白され、ヨランドの父親に結婚を申し込みに行ったところから、バルタザールの平穏な人生は一変する。頼るべき親類もなく、定職ももたず、ボロ宿しかないバルタザールとの結婚など、ヨランドの父親は認めなかった。かくしてコロカントをお供に、身分を保証すべくバルタザールの父親探しが始まった。息子が父親に会うなんて平凡な出来事じゃないかとうそぶきながら……。

 占い師に父親の顔が見えないと占ってもらったあと、次から次へと父親が現れて――というユーモア・ミステリです。

 作中でバルタザール自身が探偵小説や冒険小説のパロディみたいじゃないかとつぶやく通り、大貴族や大犯罪者の息子を始めとして、果ては中東の部族のリーダーまで父親候補になる、荒唐無稽な冒険が待ち受けています。

 ルパン・シリーズ自体が荒唐無稽な話なので、そういうキャラクターを用いても充分に面白いシリアスな冒険ものになったと思うのですが、本書では敢えて平凡人による冒険という手法が採られています。平凡を謳いながらも非凡な人生にいやいや巻き込まれてしまうバルタザールのキャラクターのおかげで、どこかのんびりとした冒険譚になっていました。ピンチになってもどこか緊迫感がありません。平凡というかやる気がないんですよ(^_^;。そこがパロディのパロディたる所以なのでしょうけれど、その意図は失敗だったんじゃないかと。。。

 そんななかで占い師の「予言」が作品のスパイスになっていました。ことあるごとに現れる、顔のない父親!

 それから相棒のコロカントの魅力が光っていました。重い鞄をいつも持ち歩いてバルタザールにお供する献身的な少女は、だるだるなバルタザールとは対照的に、いかにも冒険小説に相応しい、感情豊かで健気な女の子です。
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