『アフタヌーン』2012年10月号
豊田徹也が一年ぶりに復活! 来月号にも読み切り掲載。そして来月には短篇集『ゴーグル』も発売予定。鶴田謙二『冒険エレキテ島』も連載再開。小冊子四季賞ポータブル付き、と盛り沢山の今月号です。
『冒険エレキテ島』鶴田謙二
――エレキテ島をめざして海に出たみくら。夜になり、飛行機を洋上に降ろして休んでいたところ……。
漫画というより白黒の画集といってもいいような造り。ストーリーや台詞はほとんどなく、海と空と飛行機とみくらを楽しむ回でした。
『おおきく振りかぶって』「93 秋季・地区大1会戦7」ひぐちアサ
――武蔵野に一点リードしている西浦。秋丸がサインを出していることに気づいた阿部は……。
田島かと思ったら花井にも焦点が当たり、そしてにわかに秋丸に焦点が当てられます。
『無限の住人』「215 無念刀」沙村広明
――目の見えない吐と、天津影久の一騎打ち。ついに決着が……。
すっかり影の薄くなってしまった主人公が、空気読めない感じでようやく登場。
『バター!!!』「28 笑ってよ」ヤマシタトモコ
――本気で大会に出ることにした二宮と高岡。いよいよ大会当日、二宮は……。
二宮の意外な一面が見られました。夏みたいないかにも主人公なキャラよりも、こういう人のエピソードの方が面白い。
「とんかつ」豊田徹也
――数年前の架空担保物件疑惑。真相を知る老人は、思い出す代わりにあるとんかつ屋を探してほしいと言った――。
豊田氏ひさびさの読み切り。ごく普通に生きている人の、誰もが当たり前に持っている過去のしがらみが、ふっと浮き出てきたりふっと溶けて消えたりする瞬間を描かせて、右に出る者はいない作家さん。
『百舌谷さん逆上する』「51 百舌谷さんを今度こそ本気で幸せにする会3」
しばらく見ないあいだに、いつのまにか竜田が記憶喪失になってる。。。
『午後のお花屋さん』「3 裂開」友沢マサオ
――野菜泥棒だと思って捕まえたのは、畑を間違えた知り合いだった。
2011年10月号の四季賞特別賞「FOUR SEASONS」の作者の新連載が始まってました。連作短篇の模様。シリアスも描ける方だったんですね。「腕を握る」行為に二つの意味をだぶらせて、しかも一つ目の握りが二つ目のきっかけになっている構成が巧みです。
『リマスターズ!』「8 beauty and decadence」みやざき明日香
――あるV系バンドに、「成功」に対する同じ姿勢を見たひばり。ボーカル同士で作詞対決をすることに……。
輪をかけたバカのおかげで、レギュラー全員がまともに見えます。でもボーカル対決と言いながら作詞対決って、しっかりボケてたりもしてました。
『天の血脈』(7)安彦良和
――神功皇后の御前に出た鯨面の少年……。
いつの間にか舞台が古代日本になっていますね。。。数か月のあいだにどういう展開があったのか。
『四季賞ポータブル 2012夏』
「パライゾ」土屋真帆
――シは自分の髪を売って街から食料を買っていた。イチ兄は女に腕を食われて死を悟り、覚悟を決めて柱の前に座った。己の運命を受け入れるニ兄と、受け入れずに抵抗するサン……。
四季大賞。特殊な習俗に囚われ閉鎖された空間で暮らす一族が、やがて滅び、生き残った者が外を目指す――こうした「型」を、しっかり活かして、独自の世界を構築しています。商人のおじいちゃんの視点にしてみてもまた違った面白さがありそうです。
「えろほんさん」飯島しんごう
――拾ってきたエロ本が付喪神になってしまった。吉田は好きな子に告白しようと、イメチェンを試みるが、えろほんさんが邪魔をして……。
四季賞。思いつきを形にしてしまった作品ですが、各モデルによってキャラが違い、広告まで擬人化しているように、細かいところまで気が配られています。彼氏が無駄にイケメンだったり、追跡シーンも動きがあって迫力があったりと、絵の実力がある人が描くと何気ないところまで面白いです。
「宇宙のかたすみの物体X コマメ編・ミツコ編」蘇芳浅海
――無口で目つきの悪いコマメはクラスメートから恐れられていた。下校中に「猫」を拾ったコマメは、明るくて可愛くて憧れていたミツコに、飼ってくれないかと相談するが……。
谷口ジロー特別賞。ガロ風の絵柄に、「少し不思議」な日常/非日常。これだけでも充分に好きだし面白いのですが、この作品の本当の凄さは第二部になってわかりました。なんと第一部の独特の画風は、意図的に選ばれたものでした。こういうふうに複数の視点でものを見ることができてそれを表現できる人なら、これからも面白い漫画を描いてくれそうです。
ひさびさに三作ともアタリでした。
『純潔のマリア』石川雅之
――魔女マリアは戦争が嫌いだった。だが戦争をなくそうと魔力を使って人間界に介入していることが、神の知るところとなった……。
ヴァージンマリアのだじゃれ。そしてキワドイ衣装。――にもかかわらず骨太な歴史もの。処女=ガキというように描かれているので、いつまでも子どもっぽいことを考えている、という設定にも繋がってます。マリアもそしてもちろん大天使ミカエルもぶれないのですが、ミカエルがよりによってエゼキエルのような不安定な使いをマリアのもとに送り込んだため、考えの幅が広がって物語が動いていました。