『ミステリマガジン』2012年10月号No.680【山口雅也責任編集】

『ヤマグチ マサヤズ ミステリ マガジン』と称して、名作再録+α。

「退化した人たち」チャールズ・アダムス山口雅也
 チャールズ・アダムスの一コマ漫画より、山口氏が選んだもの。
 

「目撃」スティーヴン・バー/各務三郎(The Mirror of Gigantic Shadows,Stephen Barr)
 ――エリックとカーロッタは野鳥を見に出かけた。小道の先でエリックが立ち止まった。「何が見えるの?」「なんでもない」数日後、エリックは姿を消した。

 こういうタイプの作品はこうして単発で読む方が、結末の意外性を楽しめそうです。直前に喧嘩していたというのが伏線でもありミスディレクションでもありました。
 

「白柱荘の殺人」G・K・チェスタートン/村崎敏郎訳(Dr. Hyde, Detective, and the White Pillers Murder,G. K. Chesterton)
 ――モース氏は石段の下で殺されていた。逃げていく犯人の輪郭だけは目撃されたが、指紋は一つもなかった。モース氏の弟からその話を聞いたアドリアン・ハイド博士は……。

 読み終えてから改めて見ると大胆な原題です。「人が言つていることをただ聞くのとその言葉の意味を聞くのとはまつたく別」というワトソン役の台詞から、クリスティ風の作品を予想したのですが、想像を上回っていました。
 

「1ドル98セント」アーサー・ポージス伊藤典夫($1.98,Arthur Porges)
 ――ウィルがイタチから救ったネズミは、神さまだった。一と百分の九十八インチの身長しかない神さまは、一ドル九十八セント分の願いしか叶えることはできなかった。

 強引なオチなのか、それともこういう事実があってそれに合わせて198という数字を決めたのか、それが気になります。
 

「ストーリー展開について」ジョン・ディクスン・カー森英俊
 カーによるミステリ造りについてのエッセイ。カーの物語造りのうまさは自覚的なものだったんだとわかりました。
 

「帰ってきた『ミステリーDISCを聴こう』」山口雅也
 

「町みなが眠ったなかで」レイ・ブラッドベリ都筑道夫(The Whole Town's Sleeping,Ray Bradbury)
 ――ローンリイ・ワンが女の首を絞めて歩いているっていうのに、ラヴィニアとフランシーンは暗い夜に映画に行こうとしていた。

 ウールリッチでもわかるとおり、ロマンチックなサスペンスというのは相性がいいようです。何か起こりそうで起こらない、いつ起こるのだろう、という引きが上手いです。続編というのは「At Midnight, in the Month of June」でしょうか。
 

「では、ここで懐かしい原型を……」ロバート・シェクリイ伊藤典夫(Meanwhile, Back at the Bromide,Robert Sheckley)
 ――お尋ね者ヴィラディンにも年貢の収めどきがきたようだった。FBIに追われ、森を抜け山を登り、採石場に出た。まだチャンスはある。器用に偽物の石を作り始めた……。

 ショートショート三話。開き直ったタイトルに脱帽です。アイデアに対する自信のほどがうかがえます。
 

「殺人生中継」ピエール・シニアック/末継昌代訳(Situation: Critique,Pierre Siniac,1938)
 ――戦争に特派員が行くなら、殺人現場に特派員が行ってもいいではないか。そんな馬鹿げた主張から、殺人評論家は法で保護され、殺人犯は予告をして評論家を呼び寄せ、警察の鼻をあかしているのだ……。

 初訳作品。ヘンテコミステリ『ウサギ料理は殺しの味』の作者だけあって、やはり発想が変な作品でした。パロディっぽくなく真面目に書いていそうなところが面白い。
 

「迷宮解体新書(56)山口雅也」村上貴史
 

「ドナルド・J・ソボルが遺したもの」福井健太
 聞き慣れぬ名前ですが、『2分間ミステリ』と少年もの『少年探偵ブラウン』の作者でした。
 

「第二回 アガサ・クリスティー賞 受賞作発表/選評」
 第二回受賞作は中里友香『カンパニュラの銀翼』。「一般的なミステリの枠に収まらない」「奇想小説」。
 

「ミステリちゃんが行く!(6)恩田陸杉江松恋
 

「短篇ミステリがメインディッシュだった頃(5)MANHUNT(2)」小鷹信光
 販売部数が六十万部、八十万部。すごい。

「逆転の刃先き」リチャード・マーステン/小鷹信光(Switch Ending,Richard Marsten)
 ――五年ぶりに出所したダニーは、息子の居場所を探した。よりにもよって、コニーに入れあげニックに心酔しているらしい。

 エド・マクベインの別名義作品。おまわりとの腐れ縁や、変わってしまった息子、この狭い町の感じが好きです。
 

「ありがとうが言いたくて(4)」我孫子武丸
 人形シリーズのイラストレーターへの感謝の言葉。人形シリーズの四作目が出ていたことに初めて気づきました。
 

「書評など」
◆今月号は初めから気になっていたものばかり。デュレンマット『失脚/巫女の死』、ロイド・シェパード『闇と影』、マシュー・クワーク『The 500』、レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』、彩坂美月『文化祭の夢に、落ちる』、、サセル・アイラ『わたしの物語』、『THE FUTURE IS JAPANESE』
 

 

『S-Fマガジン』2012年10月号No.679【レイ・ブラッドベリ追悼特集】

 レイ・ブラッドベリ特集。
 未訳エッセイ一篇+未訳短篇二篇「生まれ変わり」「ペーター・カニカス」+名作再録「霧笛」「歌おう、感電するほどの喜びを!」+井上雅彦新城カズマによるオマージュ短篇二篇+追悼エッセイ。

 オマージュ短篇がどちらも雰囲気が似通っているのは、ブラッドベリの感染力の高さの表れ? 追悼特集よりも『ミステリマガジン』今月号に再録された「町みなが眠ったなかで」一つの方に軍配を上げます。

 瀬名秀明氏はルパン特集の際にも、ルパンシリーズについて鋭いコメントを載せていましたが、今回もブラッドベリのノスタルジーについて要を得た追悼エッセイを寄稿しています。「ブラッドベリはいつも「メタファー」という独特の概念で創作の秘密を語った。説明するのは難しいが、多くの人々の記憶を呼び覚まし刺激するアイコンや象徴のようなものだ。恐竜、MGM、そういうもの。(中略)それらは真夏の湖面に映った太陽のようにきらきらしている。ぼくらはみなそうした眩しい湖面の記憶を持っていて、だからブラッドベリの描くイリノイ州の夏に郷愁を覚える。」
 

「乱視読者の小説千一夜(21)時を超えた物語」若島正
 特集に合わせてブラッドベリ。の編んだアンソロジー
 

「第43回 星雲賞受賞者コメント」
 パオロ・バチガルピテッド・チャンらのコメント。
 

「書評など」
◆『無力な天使たち』『フランス流SF入門』。

「現代SF作家論シリーズ 番外編 レイ・ブラッドベリ巽孝之

 

『無限の住人』1〜20 沙村広明(講談社アフタヌーンKC)『ヘルシング』全10巻 平野耕太(少年画報社)、『よるくも』(1)漆原ミチ(小学館IKKIコミックス)、『花もて語れ』(5)片山ユキヲ(小学館BIG SPIRITS)、『ふたがしら』(2)オノ・ナツメ(小学館IKKI COMIX)、『天の血脈』(1)安彦良和(講談社アフタヌーンKC)

無限の住人

 ときどき買うアフタヌーン本誌で飛び飛びで読むので、ストーリーはわからないなれど、戦闘シーンの華麗さかっこよさに惹かれていた作品。初めて通読しました。

 ――というか、以前に1巻を読んで、まったく違う作風(ヘンタイ剣士バトル)に、それ以上読むのをやめてしまっていたのですが、わりと早いうちから作風が今の傾向に変更されたようです。

 剣術の跡目争いに破れたことから浅野家を憎んでいた天津家。天津影久は逸刀流を立ち上げ、浅野家を滅ぼす。浅野家の生き残り凛が復讐のために雇った用心棒・卍は、「血仙蟲」を埋め込まれた不死身の人間だった。一人また一人と逸刀流を倒してゆく卍たち。だが同時に、幕府は目立ちすぎた逸刀流を危険集団と見なし、一網打尽にしようとしていた……。

 槇絵がこんなに早い段階で登場していたことに驚きました。使っている武器や戦いぶりのせいで色物かと思っていたのですが、天津影久を凌ぐ実力者だったとは。

 凶というかにも人気の出そうなキャラが再登場しましたが、驚くほど弱っちくなっていましたね。再登場させた意味あったのかな……。

 何よりも天津影久の性格が変わりすぎでびっくりです。

 この漫画の魅力は戦闘シーンの迫力と美しさ、これに尽きます。
 

ヘルシング

 吸血鬼を専門に退治する英国の秘密機関ヘルシング。頻発する吸血鬼事件の背後には、ナチスの残党ミレニアムの姿があった。国教会を異端として取り締まろうとするカトリック総本山ヴァチカンも加わり、戦争の火蓋は切って落とされた。

 ヘルシングに所属して吸血鬼狩りをおこなう最強の吸血鬼アーカード。そのアーカードに血を吸われ不死となった元警官セラス。このホームズ&ワトソンにも似たでこぼこコンビのキャラクターだけでも面白いはずなのですが……こうして見てしまうと、『ジャンプ』の漫画は物語造りも絵描きも上手かったんだな、と気づかされました。唐突なエピソード、コマごとに歪む顔……あまりにも粗すぎます。

『よるくも』(1)

 最下層の世界で生きる殺し屋の話。けなげな料理屋の娘キヨコ、無感情無感覚の殺し屋よるくも。

『花もて語れ』(5)片山ユキヲ

 雑誌を移して週刊連載になったため、設定の簡単なおさらいから入るのがちょっとまどろっこしい。本筋の方は、ハナの会社でのポジションと、朗読会の準備のためなかなか会えなくなった満里子さんとの気まずさ、がメイン。朗読されるのは太宰「黄金風景」。これまでほどにはストーリーとの絡みが濃くないと思うのは贅沢な悩みか。
 

ふたがしら』(2)オノ・ナツメ

 江戸を出るはずだった二人は、通りすがりの遺志を継いで江戸に戻ることに……。正反対のキャラの二人組……というのはよくありますが、このコンビの場合、弁蔵がバカ過ぎに見えるのが気になります。
 

『天の血脈』(1)安彦良和

 日露戦争前夜、古代日韓関係のしるされた碑文を調査しに満州に来た一高調査隊は、ロシア軍に襲われ捕えられるが、内田良平に助け出され、調査を継続する……。リアルな人間の動きや表情とは微妙に違う誇張された表現がときおり顔を出すのが、これぞ漫画という出来で、恐ろしいことに手塚治虫の漫画を連想させます。
 

    


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