『Les Trois yeux』Maurice Leblanc,1920年。
ルブランのSF。ということで、まったく期待していませんでしたが、意外と面白かったです。
若き東洋語学者のビクトリアン=ボーグランは、発明家のおじノエル=ドルジュルーから、説明のつかない発見を知らされる。離れの壁に掛けられたカーテンを引くと、壁に三角形をした三つの眼が現れ、さらには先の大戦の処刑や空襲の様子が映し出された。原因を究明するため、この映像を一般公開して研究費に当てようとしていた矢先、ドルジュルーは何者かに殴殺され、映像を映し出す仕組みも盗まれ、同居人のベランジェール嬢も誘拐されてしまう。「B光線……ベルジ」というのがドルジュルーの書き残した最後の言葉だった。やがてビクトリアンのもとに、ベランジュールの父親を名乗るマシニャックという商人が現れ、ある筋からおじの発明の秘密を入手したので一般公開して利益を得たいと申し出る。ある筋どころかマシニャック自身が犯人ではないのか――ビクトリアンはそれを疑いながらも、ベランジェールのことが心配で逆らえなかった。やがて公開された異様な映像、連れ去られるマシニャック、ビクトリアンに襲いかかる罠……。
というわけで、争奪戦の対象になっている「三つの眼」こそSF的ですが、これが仮に「財宝」「遺跡」だったら――と置き換えてみると、本書にはまごうかたなきルパン・シリーズの魅力が詰まっているのがおわかりいただけるでしょう。
倒れたところを抱えた拍子についキスをしてしまい、幼なじみのベランジェールと気まずくなってしまうという恋愛要素は欠かせません。
変装とまではいかないものの、ひげやマフラーやベール一つで誰にも気づかれずに誰も彼もが変幻自在に神出鬼没です。こういう漫画みたいなところが楽しい。
あるものの権利を有していたり知識を持っていながら、悪人に先手を取られて後手後手にまわって苦労するのも、ルブラン流のサスペンスの特徴ですね。これって主人公より敵役の方が一枚上手だってことなんですけど、何かあるたびに「畜生!やられた!」って感じで盛り上がるんですよね。実際はビクトリアン自身はほとんど何もしていない役立たずなのですが。。。
さてミステリ・冒険小説の部分はともかく、SF「三つの眼」についてはどうかというと――まず基本的なことですが、ホラーや幻想ではなく、しっかりSFだったというのが意外でした。しかも「三つの眼」が何なのかを推理する際のロジックが、ミステリっぽくて論理的っぽいのが嬉しかったです。