『ナイトランド』vol.7【特集 妖女】

「マグダラ扁桃体」ルーシー・A・スナイダー/森沢くみ子訳(Magdala Amygdala,Lucy A. Snyder,2012)★★★★☆
 ――感染しても1型なら安静にしていれば元気になる。3型になると蛋白質を生成できなくなり、日差しを楽しむこともできない。わたしのように。蛋白源をじゅうぶんに摂取すれば、症状を和らげることができる。それが人間の血液なら、2型だ。

 伝染病、ゾンビ/吸血鬼、ドラッグ、同性愛……定番の道具立てを用いながら、見たことのないようなグロテスクにして耽美な「吸血」シーンが描かれていました。
 

「サディスティックな少女たち」マット・レイション/田村美佐子訳(Sadistic Little Girls,Matt Leyshon,2010)★★★★☆
 ――キーランはごみ箱に放火して奉仕活動を命じられた。墓地の掃除と草刈り。音のない心地よさをやぶったのは少女の声だった。「エイミー、あの人、お祖父ちゃんのいってた犯罪者だわ」「目をあわせちゃだめよ、アンジー

 墓地で小動物を殺す二人の少女と、忌まわしい場所におぞましい怪物――といった一目でわかるホラーな構図のなか、主人公が言葉を解することのできる黒猫という存在が、異色な存在感を放っていました。単なる傍観者だったのか、はたまた不幸の使いなのか。。。
 

「墓地の恋人たち」ブライアン・M・サモンズ/植草昌実訳(Cold Desires,Brian M. Sammons,2007)★★★☆☆
 ――男は石棺を見つめた。美しい女だ。血の気を失い真っ白な肌は、ところどころ紫に彩られている。男はその身に覆いかぶさった。

 ショート・ショート。どこの世界にも変態はいるものです。嫌悪感を笑いに変える、下品にしてスマートな作品でした。
 

「カーリー」グリン・バーラス/田中一江訳

 この作者の「快楽空間」が面白くなかったので今回はパス。
 

ナイチンゲール」サイモン・ストランザス/増田まもる(The Nightingale,Simon Strantzas,2011)★★★★★
 ――アルバートの頭はひどく大きかった。クラブ〈ナイチンゲール〉の歌手エレイナと旅行に行ったはずのアルバートからは、いちども手紙がこなかった。大男が怖くて逃げ出したのだろう。わたしはエレイナに夢中になっていた。

 解説によれば「ロバート・エイクマンの再来」。スプラッタともクリーチャーとも違う、強いて言うならまさに魅入られてしまうような、形容しがたいおぞましさには、美すら感じさせます。作中人物が惹かれる人物に読者まで惹き込まれてしまう説得力を持っていました。
 

「夜の声 特別編 リチャード・マシスン追悼」

「ダーク・ドリーマー」リチャード・マシスン/聞き手スタンリー・ウィーオッター/棚藤ナタリー訳

「死線」リチャード・マシスン伊藤典夫(Deadline,Richard Matheson,1959)★★★★☆
 ――大みそかでも医者には休みがない。年寄りが死にそうだというので、身重の妻を家に残して、ルースは古びた下宿屋を訪れた。熱はない。病気ではなく、老衰だろう。「わしは今夜死ぬ」と老人は言った。

 壮大なホラ話の最後に戦慄が待ち受けており、そこでこの作品がホラーだったのだということに気づかされました。「ファンタジーを読んで育」ち、「テラー」にこだわった著者の逸品です。
 

「センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー」(第3回)

「哨兵」光瀬龍 ★★★☆☆
 ――昭和十九年。私は中学二年生だった。転校生のAの家にとつぜん一人の少女が入ってきた。奇妙なことに乳母車を押していた。Aは急に立ち上がり、もうじき警戒警報が出るから早く帰ったほうがよいと言った。

 「よく送られてくる」ような「怪異譚や因縁譚」に、斜め上をゆく「真相」。どうもこのSF的な次第のせいですべてぶちこわしにされていますが、空襲と少女と乳母車という関連性を見いだせない不思議や、さり気なくタイムパラドックスを絡めた空襲の脅威などには、引き込まれました。
 

インビジブル」立原沙耶(2011)★★★★☆
 ――四月に入り、また授業がはじまった。教室に入って出席カードを配りながら一人ずつ顔と名前を確認してゆく。三十六人。名簿を見る。三十七人。「ヤマノ キョウコ さん」返事はない。「いないのですか?」教室がざわつく。「先生……ヤマノさん、可哀相」「ちゃんと返事したし、立ってるのに」

 一線を越えてしまう直前の一行空きが効果的です。それがちょうど光をインサートする撮影テクニックのようですごく映像的なのですが、現実には「見えないこと」は映像にはできないので、実際には小説ならではのシーンだと言えるでしょう。つねに片仮名で記される「ヤマノ キョウコ」とは果たして何者だったのでしょうか。
 

「私の偏愛する三つの怪奇幻想小説
「究極の恐怖は「定義できないもの」」山本弘

 「定義できない」恐怖から、フィニイ「こわい」、マシスン「次元断層」、ハーヴィー「炎天」の三篇。
 

「カッシング・オン・スクリーン」(2)菊地秀行

「新雑誌 MONSTERZINE 創刊!」植草昌実
 

 充電期間、ということでしょうか、残念なことに次号第8号は2014年夏になるそうです。特集テーマは満を持しての「吸血鬼」。書影はすでに出来てるようなのですが。。。

 


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