『ふたり探偵 寝台特急「カシオペア」の二重密室』黒田研二(光文社文庫)★★★☆☆

 新入りの耕平は、連続殺人鬼Jの次なる標的を予言して消息を絶った。事務所の先輩・友梨は、親友であるカメラマンの清香、その恋人で綺羅先生こと真理、Kプロ社長の岡崎、出版社の南城とともに取材旅行で寝台特急カシオペアに乗っていた。そんな折り、友梨の婚約者で刑事のキョウジが爆発に巻き込まれて病院に運ばれたという報せが届く。殺人鬼Jに捕まった耕平を助けようとしたらしい。やがて、頭のなかにキョウジの声が聞こえてきた。生き霊? 戸惑いながらもキョウジの話を聞くと、この列車にJが乗り込み、綺羅先生を狙っているというのだ。

 いち早く真相を見越していた人物が早々と行方不明になってしまうというのが斬新でした。なるほど彼は名探偵ではないんですよね。オタクゆえのネット中毒だからこそあっさり真相にたどり着けただけで。ただし単なる捨てキャラではなく、図らずもJの犯行を呼び寄せてしまう役割も担わされている点、なかなかよく考えられています。

 ふたり探偵という設定によって、一人称の語り手が自分の見聞きしたものを錯誤してしまう、という新しいバリエーションが披露されているのも優れていました。【※ネタバレメモ*1

 ネットの情報をそのまま鵜呑みにしてしまう犯人、という、笑っていいんだか怖がるべきなのかわからない犯人像が現代的です。事実もデマもごった煮の世界の情報なのですから、そりゃあ正攻法で捜査してもミッシング・リンクにたどり着けないわけです。【※ネタバレメモ*2

  


 

 

 

 

*1 友梨に乗り移っていたキョウジの目には普段とは色が違うように見えたので、体形や髪型の似ている清香と南城を取り違えてしまい、密室からの消失という不可能状況ができてしまった。清香は密室となった自室から消えたのでも何でもなく、南城と岡崎の部屋に入ってそこで殺されたのである。

*2 犯人=岡崎はネット上に「死んでしまえ」と書き込んでいる「被害者」の代わりに裁きをおこなっている正義の味方のつもりだった。あげくに某の嘘の中傷を真に受けて無実の人間を殺害。耕平が刑事に化けて接触したために嘘がばれたが、某はそれをネットに書き込むバカだったため、嘘が犯人にもばれ、怒った犯人は某を殺害。そのためこの殺人だけはほかの連続殺人とは雰囲気が違った。ネットで嘘ばれを知った耕平は某を助けるべく現場に向かうが、時既に遅く犯行は終わった後――どころか犯人と鉢合わせ。監禁→キョウジが助けに来て爆発、という流れに。アニメフィギュアを友梨にうっかり壊された耕平は、ショックのあまりネットに「星崎綺羅。我慢の限界。死んでしまえ」と愚痴を書く。しかし「我慢の限界。死んでしまえ」とは当のアニメキャラの決めぜりふであり、当然本気ではなかった。しかしこれもまた真に受けた馬鹿犯人は、綺羅を標的にする。南城が茶髪女が嫌いだったため、真理に綺羅役をしてもらっていたが、実は綺羅とは友梨のペンネームだった。岡崎はあることから真理が綺羅ではないと気づいたものの、だったら恋人の清香だろうと安易に考えて清香を殺害したのだった。ちなみに真理が密室内でスズラン毒を飲んで死んでいるが、これは自殺。恋人の清香はどうやらバイだったらしく、妊娠していると知り、喧嘩のうえ絶望して自殺したのだ。そのときの喧嘩を、意識を失っている友梨の代わりに身体を支配しているキョウジが目撃し、清香と南城を誤認し、清香は部屋から出ていないのだから部屋のなかにいるはずだ、なのに部屋からいなくなっているということは、密室からの消失だ、と考えてしまった。


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