『good!アフタヌーン』2015年3月号

 四季賞受賞作を含む、新人読み切り2編+ベテラン読み切り1編掲載。

カミツレやまざき貴子
 ――アオイにフラれてから、花の名前の女を避けるようになった。避けるために調べていたら、植物好きとカン違いされ、今じゃ部屋中が植物だらけ。「カ」で始まる植物がないことに気づき、「カモミール」を買いに行った花屋で、一株だけ残っていたカモミールを女性客に譲った。傘を返しに行ったところ、その女性はシスターだった。神津礼衣(カミツレ)。花の名前だ。

 少女漫画のベテランによる、ウブな恋愛未満。
 

「fly high」藤本寿
 ――大人になんかなりたくない。あんなおっきい生き物に向かっていく勇気なんか……。「大丈夫。おれがのぞみちゃん守るけんっ」 僕らは蚊。オスは子孫を残すため、メスへのアプローチに一生をささげ、メスは血液を求めて今日も戦う。

 2014年冬・四季賞受賞作。出オチですよね。。。
 

高天原の三姉弟」環縁《たまき・ゆかり》★★★★★
 ――長女・照子(21)、長男・優月(20)、次男・建男(18)。小説家の父親はダメ男。前妻の那美子から届いた手紙には、父親が「捨てた」那美子と息子・真火人《まひと》の写真が添えられていた。腹違いの兄の存在を初めて知った三兄弟は驚きを隠せなかった。引きこもりの建男にも思うところがあったらしく、父に代わって那美子に会いに行くと言い出した。だが那美子に会いに島根を訪れた建男は残酷な事実を知ることになる……。

 四季賞出身者による長篇読み切り。「話せばわかる」なんて、決して万能の呪文ではないけれど、「話さなければわからない」のは確かなことです。常識から外れたニートの決意あればこそ、でなければ誰一人としてスタート地点にすら立てていなかったでしょう。ニートに外に出る決意をさせるほど父親のダメ男ぶりが際立っていたのか、母親の最後の思いが届いたのか。長女と長男の出番こそ少ないものの、三人ともキャラが立ってました。だからこそ、「(照子と真火人が)似てるな」という優月の一言に同意できてしまうのでしょう。登場人物の名前や、(いざ)那美が「火」を生んで死にかけたことや、スサノオ(=建男)の島根行きや、八股の大蛇(=越川)退治などが『古事記』『日本書紀』をもとにしていますが、直接的には「高天原」とは高層マンションの上階に住んでいることを指しているものと思われます。
 

  


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