『もっと厭な物語』文藝春秋編(文春文庫)★★★☆☆

 アンソロジー『厭な物語』の続編。個人的にはいわゆる「イヤミス」にはまったく興味がないのだけれど、アンソロジー好きなので購入。未読のものだけ読みました。

「『夢十夜』より 第三夜」夏目漱石(1908)

「私の仕事を邪魔する隣人たちに関する報告書」エドワード・ケアリー/古屋美登里訳(An Account of My Neighbors, Being the People Who Stop Me from Working,Edward Carey,2012)★★★★☆
 ――私はとても忙しい人間だ。ところが、ここの住人たちが私に仕事をさせてくれない。うるさい音がする。下の階に住むダッボニー夫人は、夫が仕事に出かけるとすぐに風呂に入る。配管の音でわかるのだ。

 挑発的な恰好をしているのが悪い!と相手を責める痴漢とまったくおんなじ思考回路の童話作家による、隣人ウォッチング。イヤというよりはケタケタと笑いながら読みましたが、実際にこんな人がいたとしたらそりゃ嫌だし怖いです。
 

「乳母車」氷川瓏(1950)★★★☆☆
 ――もう夜も更けたらしい。私は真っ暗な屋敷町の道を歩いていた。一台の乳母車を、まだ若いらしい女が押して行く。私はほっとして歩をゆるめた。「お坊ちゃんですか……お嬢ちゃんですか」「女でございます」

 初読以来いまいちピンと来ない作品です。実際に出会ったとしたら怖いに決まっていますが、短すぎるせいか粗筋を読んでいるようで醒めてしまいます。今ほど町に灯りがあふれていなかった昔だからこそ、月光によって浮かび上がる白がいっそう印象的ではありますが。「女でございます」「三つでございます」という具体的なセリフにもぞっとします。
 

「黄色い壁紙」シャーロット・パーキンズ・ギルマン/小山太一(The Yellow Wallpaper,Charlotte Perkins Gilman,1892)

「深夜急行」アルフレッド・ノイズ/古屋美登里訳(Midnight Express,Alfred Noyes,1935)★★★☆☆
 ――それは擦り切れた古い本で、赤い布で装丁されていた。『深夜急行』というその本、五十ページ目に一枚の挿絵があり、彼はその絵を一度もまともに見られなかった。ぞっとする絵だった。駅のプラットホームで顔をトンネルに向けている黒い人影。

 よくあるタイプの作品ではありますが、最後のページが凝っています。
 

「ロバート」スタンリイ・エリン/永井淳(Robert,Stanley Ellin,1958)★★★★☆
 ――「どうしていつも授業中にぼんやりしているの?」「先生が死ねばいいと思ったんです」「なんてことを!」ミス・ギルディーはロバートを校長ハークネス氏のところにつれていった。「ぼくは何も悪いことしていません! 先生は『わたしを殺してやりたいと思っているんでしょう?』って言ったんです」

 アンファン・テリブルもの――かと思わせて、ヒステリー女もの――かと思わせて――一筋縄ではいかない技巧派エリンらしい作品でした。
 

「皮を剥ぐ」草野唯雄(1976)★★★☆☆
 ――貞夫が無造作に突きおろした三つまたの先は、ブスリと蛙の胴をつきとおした。蛙はギャッともいわず、手足をゆっくりと空中に泳がせた。竹をゆすると蛙は穂先から抜け落ちた。そのうちに蛙の傷口から、小さな風船玉のように腸がはみ出し始めた。

 話のきっかけこそ「生き物の祟り」となっていますが、祟りなどむしろ付け足しで、中心となって描かれているのは動物を嬲り殺すグロテスクで不快な残虐行為です。
 

「恐怖の探求」クライヴ・バーカー/大久保寛(Dread,Crive Barker,1984)★★★☆☆
 ――「人間は誰でも、ときには恐怖を味わうことがある」クウェードの言葉に、シェリルは「わたしはそんなもの味わわないわ」とこたえた。夏休みが終わると、クウェードはスティーヴにスナップ写真を見せた。「シェリルを覚えているだろ? 実験をしたんだ。あの女、恐怖を感じることを、あくまで拒否しようとしやがった」

 これは好みの問題なのでしょうけれど、アイデアで始まったのに残虐描写で終わるというのはあまり好きではありません。
 

「赤い蝋燭と人魚」小川未明(1921)

「著者謹呈」ルイス・パジェット/植草昌実訳(Compliments of the Author,Lewis Padgett,1942)★★★☆☆
 ――恐喝屋のトレイシは図らずもグウィンを殺してしまい、グウィンの使い魔である猫から復讐を誓われる。グウィンの死とともにトレイシーの手に渡った魔法の書――十回までは持ち主の危機を救ってくれる本のおかげで、トレイシーは難を逃れるが――。

 悪魔との契約+三つの願いもののバリエーション。前集掉尾のブラウン「うしろをみるな」同様、ある仕掛けによって巻末を飾るに相応しい作品でした。

  


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