『黒い天使』(Black Angel,1946,米)★★★☆☆

 〈フィルム・ノワール・ベスト・コレクション〉より。

 コーネル・ウールリッチの同名小説が原作。ダン・デュリエ、ジューン・ヴィンセント、ピーター・ローレほか出演。

 飲んだくれピアニストであるマーティン・ブレアの妻マーヴィス・マーロウが殺された。現場にいたカーク・ベネットが疑われ、逮捕される。カークの妻キャシーは夫の無実を信じて、夫が現場で見た直後に消え失せていたブローチを探そうと決意する。一度はマーティンを疑ったが、当のマーティンから重大な情報を手に入れる。事件当夜に妻に追い返されたマーティンが、現場で別の男を見たというのだ。その男がクラブのオーナーだとつきとめた二人は、ピアニストと歌手としてクラブに潜り込むが……。

 原作自体が実はあまり面白くなかったのですが、映画化からは原作の「黒い」部分がきれいさっぱりなくなっていて、おまけに男女のコンビで探偵役を務めており、容疑者も一本に絞られて、これではサスペンス味に乏しい『幻の女』超絶劣化版でした。

 みどころは主人公コンビがクラブに潜入して演じたピアノと歌、だけという困ったことに。

 夫婦の愛情がまったく描かれないまま事件がスタートするので、鑑賞者を置き去りにして妻の感情だけが一人歩きしてしまっています。

 一度は思い込みでマーティンを疑ったキャシー(警察がきっちり捜査済みでした)が、同じ失敗を繰り返してしまいます。なんという徒労。無意味なサスペンス。失敗作というよりは、スリラー映画に対する批判となっているような気もします。現実なんてこんなもんだよ、と。

 結局のところ〈サスペンス〉ではなく〈フィルム・ノワール〉なのだからして、サスペンスなんかなくても、駄目男の駄目っぷりが描かれていればそれでいいのかもしれません。

 それにしてもこの〈フィルム・ノワール・ベスト・コレクション〉。惹句が「アメリカ映画史の闇に潜んでいた傑作がいま甦る!!」。〈ノワール〉って、そっちの闇ですか(^^;

  


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