『ミステリ珍本全集04 大阪圭吉 死の快走船』日下三蔵編(戎光祥出版)★★★☆☆

 大阪作品のなかから、現在入手できる単行本に未収録の作品および未刊行作品を集めたものです。落穂拾いの感があるのは致し方のないところでしょうか。

PART 1『死の快走船』より

「序」江戸川乱歩

「大阪圭吉のユニクさ」甲賀三郎

 二人に共通している大阪評は「地味」というもの……。
 

「死の快走船」(1933,1936)★★★★☆
 ――隠居後も海の上の暮らしが忘れかねたのか、深谷氏は、船形の岬の上へ、船の上の建物であるかのような家を建てて、キャプテンの敬称を強要していた。朝から晩までヨットで帆走していたが、その日には冷たい骸となって漂っていた。私に同伴していた東屋氏は、深谷氏が頭を殴られていることを指摘した。

 船体に泡がついているその高さから、事件当夜に同乗者がいたことを推理する手際は、まさにホームズそのものでした。しかも横揺れ《ローリング》のことを第三者に指摘させたうえでその指摘を否定する手順を踏むなど、ホームズの推理の穴をしっかり改善しています。そもそもの事件のきっかけを、絵で語らせるのも、鮮烈な印象を残します。現象自体は珍しいことでもないのに、このように見せられると非常に効果的でした。
 

「なこうど名探偵」(1934)★★☆☆☆
 ――洗濯屋の親方が、大手鴨十氏に端書で呼ばれて訪ねたところ、当の鴨十氏は白い布をかぶせられて布団に寝かされていた。細君が親方に留守居を頼んで出かけたところ、死んだはずの鴨十氏が起上がった。落ちていたハンカチを手がかりに、トマト泥棒を捕まえるつもりなのだ。

 ミステリとしては、なぜ洗濯屋が呼ばれたのか――に話がつながるところまでが面白い。また、タイトルが「名探偵」といいつつ、探偵役が批評家ではなく「創造的な芸術家」を演じているのもひねっています。
 

「人喰い風呂」(1934)★★☆☆☆
 ――床屋の金さんが銭湯に浸っていると、隣の女湯が騒々しくなってきた。そろそろ店仕舞に取りかかろうとしたところ、お客さんは三人しかいないというのに、戸棚には四人前の着物が這入っていたという。そんな事件が続いたため、やなぎ湯の甚平はしょんぼりとしていた。

 表象には意味はなく別の目的のための行為であるという点で、一種の「赤毛連盟」ものといえなくもないですが、幽霊話や誹謗中傷ならまだしも人間消失(らしきもの)で評判にケチをつけようというのが、あまりにも非現実的で、初めに奇想ありきの作品になってしまっています。
 

「巻末に」(1936)著者による巻末の言葉。
 

PART 2『ほがらか夫人』より

「謹太郎氏の結婚」(1939)
 ――石巻謹太郎氏は求婚欄で結婚相手を探していた。謹太郎氏の好みにピッタリの広告を見つけ、履歴書のやり取りをしていよいよ会うことになつた。ところが訪ねてみると、水田女史は「どなた様ですの?」

 初出「求婚広告」の題名で『大阪圭吉作品集成』に収録されたものを既読。
 

「慰問文夫人」(1940)★★★☆☆
 ――兵隊さんの心を柔かに包み、慰めてあげるような……阿佐子夫人は夫の助言で、女学生時代の作文を思い出しながら慰問文を書きあげた。やがて兵隊さんから元気に満ちた礼状が届いた。慰問文が効果をあげたことに感極って、夫人はふたたび筆を取ったが……やり取りを繰り返すうち、無事帰還した際には会いたいという礼状が……。

 時局がら戦争が取り入れられています。戦意高揚的な文言を、「兵隊さんをがっかりさせないため」という、夫人が本当のことを打ち明けられない合理的な理由に落とし込んでいるところが巧みだと思いました。
 

「翼賛タクシー」(1941)★★★☆☆
 ――渥美君夫妻はうっかり田舎駅へ降りてしまった。これでは弟の出征に間に合わない。売店の主人から、留さんの翼賛タクシーを紹介された渥美君は思わずタジタジとなった。それは自転車にリヤカーをつけたような奇怪な車だった。「ガソリン節約、廃品更生の翼賛タクシーで」

 時局ユーモア小説。特に後半部分のドタバタなど、文章によるスラップスティックとも言える作品で、登場人物をドリフなどに変換して読むとなお面白い。
 

「香水紳士」(1940)
 ――クルミさんはお嫁入りする従姉に、自分だけのお祝いのつもりで、香水を買い求め、一人列車に席をとった。そうして十分もしないうちに、四十前後の眼つきの鋭い男が眼の前の席へドンと腰掛けたのであった。

 『大阪圭吉作品集成』で既読。
 

「九百九十九人針」(1941)★★★☆☆
 ――退屈しのぎに山本上等兵が千人針の目を数えたところ、やっぱりちょうど千針ある。ところが小野田一等兵だけは、九百九十九針しかない。急いでこしらえた妹がつい間違えてしまったのだろうが、時々そのことがふと影のように心を掠めるのであった。

 これはミステリではなく戦地での人情譚で、オチも予想通りですが、いい話ではあります。
 

「約束」(1941)★★☆☆☆
 ――松永一等水平が息を引き取る間際、慰問文を書いてくれた美津ちゃんのことを木下一等水平に託した。無事帰還したら豊島園や多摩川に連れて行く約束をしていたのだ。

 「九百九十九人針」と同パターンですが、こちらの方がシリアスです。
 

「子は国の宝」(1942)★★☆☆☆
 ――平松さんには子供が十一人ある。遊園地に行くためバスに並んでいたところ、まさか大家族だとは思わなかった車掌さんに、半分に分けて乗せられてしまった。ところが奥さんは財布を持っていない……。

 これまでの作品とは違い、あからさまに戦意高揚的な作品でしたが、大家族の苦労をユーモラスに描いています。
 

「プラプイ君の大経験」(1941)★★★☆☆
 ――プラプイ君はタイ国の留学生である。タイ・佛印の紛争を調停して、一躍東亜の盟手として名をあげた日本に学びに来たのであった。真の日本語を勉強するために、語学学校ではなく一般家庭で生活しようと考えた。受け入れ先の家庭に行くため電車に乗ろうとしたが、満員電車にひしゃがれて……。

 外国人が見た当時の日本。きちんとした整列と満員電車は今も昔も変わらないようです。
 

「ほがらか夫人」(1942)★☆☆☆☆
 ――金田君は結婚を機に家を構えようとしたが、昨今の住宅難のせいでアパートの一室しか借りられなかった。それでも妻の松枝さんは気も心も実に伸び伸びしているひとであった。そこに暗澹たる憂鬱がのしかかった。契約書に、「御出産ノ場合ハ必ズ移転」と書かれてあったからだ。

 初出時の題名「自若夫人」。起承転結も伏線も何もなくただ「子宝」で落としただけの、「どうしちゃったの?」と言いたくなるような作品でした。
 

「正宗のいる工場」(1940)★★☆☆☆
 ――「日本刀の威力が世界に認められているのも、正宗のような刀匠がいたからこそである。新時代の兵器を作り上げるわれわれ工場の工員たちは、昭和の正宗たらん」喜代子は楠木の演説に敬意を抱いたが、喜代子を引き抜こうとしている小田松市のように反感を抱くものもいた。

 これもあまり構成に力を入れてません。出征を前に改心することですべてが丸く収まります。
 

「トンナイ湖畔の若者」(1938)★★★☆☆
 ――孤児だった知古美郎《チコビロ》は北海道で教育を受け、故郷である樺太に戻ってきた。毎年三月下旬には日本人の船が日用品と魚を交えに来るのに、今年の春にはまだ来ない。とうとう日本が露西亜《ヌチア》と戦争を始めた。ついては戦争が終わるまで漁場を守っていてほしい……。

 「トンナイチヤ湖畔の若者」改題。比較的長めの作品です。ロシアから日本の漁場を守り日本のために戦うアイヌ――という完全なる戦時小説でした。
 

PART 3『香水夫人』より

「香水夫人」(1939)★★★☆☆
 ――宇津君は中学時代の親友モリ健とばったり会って飲み過ごし、ふと気づけば別人の部屋。足音を聞いてあわててカーテンに隠れると、入って来たのは香水夫人だった。大事なものが盗まれたと騒ぎだすのを聞いて、疑われることを恐れる宇津君だったが、翌日には夫人は何もなかったかのようにふるまっていた……。

 合い鍵の管理は昔はこんなものだったのだろうかと思いますし、動機にしてもそんな理由でそれを窃盗するのかというものではありますが、比較的ミステリの体裁の整った作品です。
 

「三の字旅行会」(1939)★★★★☆
 ――赤帽の伝さんは奇妙な婦人の旅客たちに気づいていた。毎日さまざまな婦人が、東京駅着午後三時の急行列車の、三等車の前から三両目から降りて来る。出迎えの男が持ち出す手荷物には、赤インキで筆太に三の字を書いた荷札がついているのであった。ついに伝さんはその出迎男に話を聞いた。「お察しの通り、私は三の字旅行会というのに使われている……」

 それなりに地に足の着いた犯罪を包み込むのが、三の字旅行会というおよそ現実感のかけらもないファンタジーです。伝さんがお人好しでなくては成り立ちませんが、こういう奇想を見せようという著者の心意気が嬉しい。現実を空想で塗り替えるのも、本格スピリットだと感じます。
 

「告知板の謎」(1939)
 ――大事な恋人とはじめての郊外散歩を約束した日曜日、木谷君は仕事に駆り出され、三時間半も遅れてしまったのである。やっぱり、代々木駅にはもう彼女はいなかった。と、伝言板の上に「K様。駒込駅にてお待ちいたします。M子」と記されているではないか。

 『大阪圭吉作品集成』で既読。初出時題名「告知板の女」。
 

「寝言を云う女」(1940)★★★★☆
 ――松野君は貧乏な小説家である。アパートの隣室に引っ越して来た女が、毎晩壁をしみ通すような寝言を云うのだ。引っ越しを考えていた矢先、松野君は尋ね人の新聞広告に目を留めた。そこに書かれた特徴は、隣室の女に違いなかった。松野君は賞金目当てに、どうにかして隣の女を探し人のところへ連れ出そうと考えた。

 確かに「寝言」では「赤毛」ほど魅力的ではありませんが、その分リアリティが増すのも事実です。さらには対象となるのが「貧乏な小説家」である意味、必要なのは数日数か月ではなく数時間であること等、あのネタをうまく料理してあると思います。
 

「特別代理人(1940)★★★☆☆
 ――「失敗った!」粗忽性の長良君がまたしくじってしまった。社長宛の私信の封を切ってしまったのだ。しかも婦人から来たなまめかしげな手紙! 「ご好意をお持ち下さいましたなら、明後日の午後三時に、新橋駅まで……」長良君は悩んだ挙句、社長には手紙を届けず、いっそ社長の代りにその女に逢って、説き伏せて来ようと考えた。

 ミステリではないユーモア・ショートショート。今回も「赤毛」パターンかと思いきや、あな恐ろしや、女の手管です。
 

「正札騒動」(1939)★★★☆☆
 ――デパート丸菱の閉店時間である。家具部の受持女店員304番嬢は丸い頬ッぺたを一層ふくらしていた。高価な総桐箪笥と平凡な洋服タンスの正札が入れ替えられていることが、これでもう三度もあったのだ。

 なぜ高い値札と安い値札を付け替えるのか? リアリティから言うと問題外ですが、大阪圭吉がロジックやドイル的なトリックだけではなくこうしたチェスタトンふうの奇想にも長じていたことがわかります。
 

「昇降時計」(1937)★★☆☆☆
 ――六時のところに「地」と「屋」があって1から7時までしかない時計――デパートのエレベーターに過ぎないのであるが、四つ並んだその時計の一つが、妙な動きをすることに玩具売場の宇野球太郎君は気づいた。「屋」から「地」までどこへも止まらずに降りたかと思えば、五階に止まっても扉を開けずに動き出したりする。

 これはさすがに見かけの奇妙さのためだけに作られた奇妙な出来事であって、エレベーター嬢のやっていることに何の必然性もなければ実現性も論理性もありません。
 

「刺青のある男」(1940)★★★☆☆
 ――A温泉の一旅館。眼つきの鋭い男が、ヒットラー髭の紳士へいった。「お近づきに一風呂一緒に浴びませんか」「いまし方浴ったばかりですから」「そうですか。時に東京では大変もない強盗が流行ってますなア」「え?」「あの刺青強盗ですよ。刺青を怖がられたのに味をしめて、始めから片肌ぬぎで押込みつづけているそうです」

 導入部だけであらかたの予想はつきますが、二人だけによる室内劇のように見栄ながら結末では外部のものが突入して来る、という意味では意外性がありました。
 

 PART 4『人間燈台』より

「唄わぬ時計」(1938)
 ――或る晩、道具屋から拾いあげて来た目醒時計であるが、時刻が来ても唄わない。そこで骨董好きの牧という男に時計の話を持ちかけて見た。すると今日になって手紙が来た。「私が時計を調べているうちに発見した事実は、四月ほど前に私の身近で起こった或る殺人事件と密接な関係を持っていたのです」

 アンソロジー『悪魔黙示録』で既読。
 

「盗まぬ掏摸」(1940)★★★☆☆
 ――地下鉄の健は近ごろ売りだした箱師である。ハンド・バッグを胸のあたりへ抱えるように大事そうに持った娘が、急いでいるらしくそわそわしている。電車がホームに滑り込んだ時には、健のポケットにはハンド・バッグが入っていた。ところがバッグから出てきたのは、千人針だった。

 大阪圭吉版「よみがえった改心」。「良心」を「愛国心」に置き換えたものですが、もともとの型が名作なので充分おもしろい。ひたすら無言で追い続ける「鬼塚本」なる鬼刑事もいい味を出しています。
 

「懸賞尋ね人」(1939)★★★☆☆
 ――銀座の舗道でいきなり呼び止められた新太郎はハッとなった。今日は他人からジロジロ見られてばかりだ。家に帰って細君の差し出す新聞を見れば、新太郎そっくりの特徴をした尋ね人の広告が出ている。新太郎夫妻は懸賞金目当てに本人になりすますことにした。

 上記「盗まぬ掏摸」同様、「赤毛」的な謎の真相を〈愛国〉で受けたもの。これはこれで今読むと意外性がありました。
 

「ポケット日記」(1941)★★★☆☆
 ――片桐君は駅までの道を歩いていた。舗道の片隅に、赤い小さな手帳が落ちている。可愛いポケット型の婦人用手帳だ。片桐君はソッと広げてみた。「○月○日 お風呂でシュミーズをひっかけてしまったが、時局柄新調は見合せ、繕って置くことにした。」……

 これは立場が逆だとまったく面白くありません。夫(男)にはまったく見えてないことに説得力があるわけで。
 

「花嫁の病気」(1939)★★★☆☆
 ――シナ子さんは松野君には勿体ないくらいの細君だった。ところがそのシナ子さんに、大変妙な癖があることがわかった。何処かへ見失ってしまった愛用のパイプを、シナ子さんの箪笥の抽斗で発見してしまった。

 これまでも愛国作品はありましたが、さすがにこのオチは引いてしまいました。愛国といっても人情に訴えるものではなく、国に媚びを売っているようなものだからです。
 

PART 5『仮面の親日

「恐ろしき時計店」(1940)★★★☆☆
 ――ポンスン商店に勤めているミドリさんは、店主のポンスン氏が飾窓に飾っている時計のおかしな点に気づき、ポンスン氏はスパイだと確信した。ところがミドリさんは時計による暗号指令を警察に届けもせず、従兄の岡田君を呼び出した。

 暗号としては他愛のないものですし、作中でも暗号自体が視覚化されたりはしないので、暗号小説というわけではなく、ミドリさんの機転と勇気と愛国の物語です。
 

「寝台車事件」(1943)★★☆☆☆
 ――東京駅をあとにした二等寝台車。さっきからモジモジしている新婚の若い男女があった。花婿の利根君、サッパリ寝つかれず、便所へ出掛けた。戻って来た利根君、向かいの寝台に八字髭の外人を見つけて、自分の向かいには黒眼鏡の外人がいたはずだと、一つ越した寝台のカーテンを開けたから、大騒動になった。

 寝台車というのが、公共の場におけるプライベートな場である、というのはわかりますし、新婚の二人が寝つけなかったというのもわかりますが、事件自体は利根君にしてもスパイにしてもお粗末なものでした。
 

「手紙を喰うポスト」(1939)★★★★☆
 ――理髪店の主人時さんは、同業の娘お澄ちゃんを見初めて、とうとう手紙を出すことにしたが、切手を貼らずにポストに入れてしまった。翌日の集配を待ち伏せて郵便屋さんにポストを開けてもらったが、時さんの手紙は消えていた。

 からくり自体は単純ですが、探偵小説らしいタイトルにもなっている不可思議現象は単純ゆえに効果的で、本書にいくつかある「赤毛」パターンのバリエーションよりよほど魅力的でした。
 

PART 6 単行本未収録短篇集

「塑像」(1934)★★★☆☆
 ――兜山博士は愛する花嫁に先立たれてからは研究に没頭し始めた。すると何日の頃となく、窓の曇り硝子に、均斉的《シンメトリカル》な女人の裸像が、影を映す様になった。生徒達は気高い愛情の表現に感激に浸っていたが、暫くする内に不思議な噂が広がり始めた。花嫁の塑像が痩せる!

 真相が意味不明すぎてめちゃくちゃ面白いんですが、著者本人はきっと至って真面目なのでしょう。
 

「案山子探偵」(1936)★★★☆☆
 ――鴨十氏はその禿あたまから斬新奇抜な名案をつくりだす。郊外の果菜園についても今年は「流線型カボチャ」という名前をつけて売り出すことにした。ところがそろそろ出荷にとりかかろうかという折も折、畑が夜盗に襲われ、カボチャが千切られたり踏みつぶされたりしていた。

 至極まともな犯人探しのようなくせして、動機は想像外、最後には落語のようなオチが待ち受けている、という怪作でした。
 

「水族館異変」(1937)
 ――中学四年の清は、水族館で催されている「南海美人鮑取り」にコッソリ通うのであった。香具師の伊太郎がお鯉と出会って打ち出した興業だ。水槽のなかのお鯉やお春の姿に客たちが見とれているあいだに、伊太郎は客の懐を……。

 『大阪圭吉作品集成』で既読。
 

「扮装盗人」(1938)★★☆☆☆
 ――ある撮影所で怪談映画にとりかかっていた。まず最初に、羽二重の下着が盗みさられた。次に数珠。そしてとうとう幽霊の鬘が盗まれると、恐ろしい考えが人々を襲いはじめた。盗まれたのはどれも幽霊の衣装ではないのか。

 盗む理由に創意がなく、しかも楽屋落ちとあっては、さほど面白さがありませんでした。
 

「証拠物件」(1938)★★☆☆☆
 ――冬山冬介氏は、追剥ぎに出会って蹌踉として歩いていた。やがて何を思ったかもと来た方へ歩きはじめ、被害の現場へたどり着くと、マッチを擦って四ツン這いになって何かを探しはじめた。

 いざ返報を――と思うではありませんか。しかしながら、これが現実の男というものです。
 

「秘密」(1940)★★★☆☆
 ――その朝、堤舟子夫人が受け取ったのは、学生時代の夫と同じく舟子の家の下宿屋に下宿していた橋元龍夫からの手紙だった。舟子夫人とて貞淑なる人妻であったが、手紙のやり取りに道徳線を越える恐怖を感じて、文通を止めるよう返事をした。

 まあ、何というか、愛があって何よりです(^^;。
 

「待呆け嬢」(1940)★★☆☆☆
 ――今を時めく国策重工場の社長のところへ、秘書が退社後に怪行動をしているという投書が舞い込んだ。社長みずからつきとめてやろうと尾行すると、秘書嬢は駅の待合室でどうやら誰かを待つ様子。

 大阪圭吉・川島順平・蘭郁二郎によるお題小説。どうにもやっつけの感は否めません。
 

「怪盗奇談」(1940)★★☆☆☆
 ――つい飲み過ぎてしまった星川君。黒い洋服を着た男が、とある邸の石塀へ飛びつき、乗り越そうとしているところを目撃した。泥棒を捕まえて手柄を立てれば、女房のやつも今夜の酩酊を見逃して呉るに違いない。

 恐妻譚。それでもきちんとミステリめいた造りは残しているところに感心します。
 

巻末資料

「大阪圭吉論 本格派の鬼」権田萬治

「人間・大阪圭吉」鮎川哲也

「理論派ミステリーの先駆者」鮎川哲也

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