『アフタヌーン』2018.3、「終末トリコロール」雨森衛、『私と私』佐原ミズ、「無常の霧音」泉仁優一

アフタヌーン』2018年3月号(講談社

『天国大魔境』1「トキオ」2「マル」石黒正数
 石黒正数による新連載。管理された異世界で暮らすトキオやミミヒメら少年少女たちを描いた第一話。荒廃した社会で目的地を目指す、トキオやミミヒメにどことなく似ているマルとおねえちゃんを描いた第二話。二つの世界につながりはあるのか、何を目指しているのか、などなど謎は尽きません。巻末の「もう、しませんから。」も石黒正数の回です。
 

「うつくしいものたち」富田童子
 ――醜い男は井戸の底でさまざまなものの修理を請け負い暮らしていた。望遠鏡の修理を依頼した美しい存在に、男は目を奪われた。井戸の外に出て補修材料を探してゴミを漁っていた夜、その存在が窓から落ち壊れるのを見た。

 2017冬のコンテスト四季大賞受賞作。19世紀〜20世紀初頭のヨーロッパを思わせる、ギムナジウム文学あたりが似合いそうな舞台で、E・T・A・ホフマン作品のように人間がモノ化されているという、堂々たる幻想譚。それでいながら耽美でないのも趣味がいい。
 

『モーニング』2018年No.7 2018/1/18発売(講談社

「犬、走る」ゴトウユキコ
 ――言われるがまま走り回る犬山は、職場の先輩から犬みたいだと言われていた。同棲中の彼女に見限られても、怖くて向き合うこともできずにいた。

 読み切りCARNIVAL第14弾。
 

「終末トリコロール」雨森衛
 ――冴えない高校生の影山は、教科書に落書きしていた漫画を隣の席の白石真由子に見られてしまい、ノートに描いている漫画「終末トリコロール」を見せるはめになった。

 モーニングゼロ2017年10月期入選作。作中作「終末トリコロール」は、さすらいの理髪師による世直しバトル漫画(?)。読み手からはギャグ漫画だと思われていますが、そりゃギャグだと思われるでしょう(^^。めちゃくちゃ甘酸っぱくて爽やかな青春作品です。痛いけれど臭くないのがいいです。選考漫画で担当が絶賛していたのもうなずけます。
 

『私と私』佐原ミズ徳間書店ゼノンコミックス)
 『マイガール』『鉄楽レトラ』『夜さん』などの著者による短篇集。「箱庭の虜」「ゆびきり姫」「私と私」を収録。「箱庭の虜」は、引きこもりの青年が突然現れた少女にかまわれるうちに希望を見出していくも……という内容で、さすがにご都合主義に過ぎるところがありました。「ゆびきり姫」は、約束をするのが好きな不気味な女の子が登場する、少しブラックな掌篇です。表題作「私と私」はほぼ同名の転校生の美少女とブサイクな高校生が登場します。見た目以外も正反対なので、当初はお互いのことを嫌い合っていました。著者自身も述べている通り暗い話が多く、不幸が詰め込まれているのですが、テンポがいいので尾は引きません。二人が仲良くなったあと、一家を不幸にした当事者と会った絶望感からの盛り上がりは、落差が大きくて印象に残ります。

「無常の霧音」泉仁優一
 2017年秋のコンテスト準入選作。現代に生きる忍の一族を描いた作品です。アフタヌーン公式サイト「モアイ」で読むことができます。選考結果の作品紹介のコマの絵がすごく魅力的だったので気になっていました。おそらくは忍者という内容に合わせたのであろう白土三平ルパン三世を思わせる画風が作品世界にぴったりでした。主人公が手帳を拾い上げるコマは水木しげるっぽくもあります。これで準入選とは驚きの完成度ですが、この回は大賞が「二人で破戒(やぶ)れば怖くない」なので仕方のない面も。その他の準入選作や佳作も「モアイ」で読むことができるようです。

    


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