『ミステリーズ!』vol.87

「イメコン――カラースマイル」遠藤彩見 ★★☆☆☆
 ――高校生の直央が市役所に行くと、紙吹雪が舞っていた……と思うと、紙吹雪の詰まったダンボールが女性職員の間近に落下してきた。その後もその職員・梢に物が落下してくることが続いた。直央は市長のイメージ・コンサルタントである一色と一緒に、梢の様子を観察することにした。

 イメージが大事――というのはわかりますが、梢に対する一色の対応は、いじめられる側にも問題がある……みたいですっきりしません。表に見えている落下物の件が実は事件ではなく、見えていない件が実は事件だった、という構図は面白かったです。
 

Mystic―ミスティック―」雪乃紗衣 ★☆☆☆☆
 ――拓人は怪奇現象が嫌いだった。霊感などなかったが、母親の旧友サヤが近くにいると、なぜかそういったものが見えてしまうのだった。級友の彰が深夜にインターホンを鳴らしたときも、「あれは本当にお友達ですか。招じ入れることを許したら、中に入ってきます」とサヤに注意され……。

 語彙や表現や物の見方を小学五年生のものにしようという意識が感じられず、読んでいていらいらする文章でした。口語と文章語の違い云々というより、無自覚なのでしょう。
 

「告別式に、食品サンプルの雨が降る 《ほしがり探偵ユリオ》」青柳碧人 ★★★☆☆
 ――ユリオの妹さくらが恩師の葬儀に出席していると、隣のビルから食品サンプルの雨が降ってきた。外に出ていた参列者が中に戻ると香典が消えていた。

 連作シリーズの一篇。食品サンプルの雨も消えた香典も、一つのものを隠すために多くのもののなかに紛れさせるという点で共通していました。このパターンだと気づかせないのは、そこまでするか――という不自然さの裏返しでもあるようです。
 

「良夜」森谷明子 ★★★☆☆
 ――夫とも離婚し、息子の佐由留も家を留守にすることが多くなった茉莉は、久しぶりに馴染みの書店を訪れた。亡くなった店主が借りていたクリスティーの文庫本を返却しに図書館を訪れた茉莉は、いなくなった書店の猫のことと店主の遺言状のことを司書に相談した。

 秋葉図書館シリーズ。借りていた三冊のうち、『春にして君を離れ』は主人公の心理状態に重なり、『ヘラクレスの冒険』は猫の居場所のヒントになっていましたが、では残る一冊『杉の柩』はどんな話なのかな……と勘繰ってしまいます。
 

「嗜好機械の事件簿(6)六つ墓村」喜国雅彦
 ――『オリエント急行殺人事件』を観に来たカップル。映画の前に新春映画の予告篇が始まった。衝撃の六つ子トリック!……。

 横溝正史とおそ松と映画がネタにされていました。
 

「私はこれが訳したい(38)THE WPA GUIDE TO NEW YORK CITY」山田久美子
 WPA(公共事業促進局)によるニューヨーク案内。作家たちも多く寄稿していた。
 

「東京駅発6時00分のぞみ1号博多行き」大倉崇裕 ★★★★★
 ――蓮見は埠頭の倉庫街に上竹を呼び出した。ゆみが自殺したのは上竹に顧客データを盗まれたのも一因だった。蓮見は拳銃を取り出し上竹を撃った。そしてヤクザ上がりの朝倉にも二発……。蓮見は社長も出席する式典に参加するため新幹線に乗った。隣の席には眼鏡をかけた地味な服装の小柄な女性が座っていた。

 福家警部補シリーズ。走っている電車のなかで殺人犯と乗り合わせることで、駅に着くまでというタイムリミットが設定されていて、犯罪が露見するかどうかというのとはまた違った緊迫感に覆われていました。現場の二岡たちによる情報収集と、車内での福家と犯人の攻防が同時進行でおこなわれているのも、スリリングな展開に一役買っています。犯人の最後の一言は、「復讐を」なのでしょうか「無罪放免を」なのでしょうか考えてしまいます。
 

「ヴェロニカの千の峰」岩下悠子 ★★★☆☆
 ――修道院から姿を消すその前日も森江絹子は山を仰いで祈っていた。同室のシスターによれば、絹子はその日も巾着袋に入った『秘密のロザリオ』を胸に抱いて眠っていたという。舞はその巾着袋から青い紐状のものが覗いているのを見たことがあった。絹子が泣いていた理由に思いを馳せていた舞は、青春時代のことを思い出していた。プール……。

 これもある意味で叙述トリックかな、とミステリ脳には感じられてしまいました。京都の街が「それを東方に望む」という時点で、オリーブの山の正体が察せられてもおかしくはなかったのですが。無論それがわかったからといって作品全体の内容が明らかになるわけでもありませんが。
 

「ホームズ叢書(4)大正期の小型本に潜むホームズ」北原尚彦 春江堂の《探偵文庫》の一冊『探偵奇談 要塞の秘密』という、「海軍条約」の翻案について。

ミステリーズ!ブックレビュー」
 川瀬七尾『テーラー伊三郎』、「保守的な町の体制に従属してきたことを悔いるこの老人(=伊三郎)、コルセットによって町に革命を起こそうとしている」。『自薦 THE どんでん返し 1』『2』『新鮮 THE どんでん返し』なんて本が出ていたんですね。男性作家版の『1』より女性(?)作家中心の『2』の方が面白そうです。近藤史恵「降霊会」や加納朋子「掌の中の小鳥」など意外と未読でした。『新鮮』は若手の書き下ろし。青柳碧人や天祢涼が参加しています。林泰広『分かったで済むなら、名探偵はいらない』は、シェイクスピアロミオとジュリエット」など戯曲の別解釈が楽しめる七篇。倉知淳『皇帝と拳銃と』倒叙ものシリーズ。復刊ものでは仁木悦子『粘土の犬』、大岡昇平『事件』
 

  


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