ちくま文学の森6『思いがけない話』より
〈菊池寛〉という作家は思い込みの激しい正義漢というイメージがある。そのイメージからして、〈仇討〉というものに肯定的であるのに違いない、という先入観をもって読み進めました。
そのように読んでみると、一見〈思いがけなさ〉という点ではありきたりに見える「その三」のエピソードが、また違って見えてきます。
これは嘉平次に対する罰なのだ、と。〈仇討〉をおろそかにした者に対して、神たる作者がくだした一つの罰。「その一」に見える、仇討をあきらめた者、その仇の浅ましさ、「その二」に見える、仇討を果たせなかった者と果たした者の悲しみ、それに対して「その三」には唯一しあわせな〈仇討〉が見られる。一見「その三」は、嘉平次に対する皮肉と、仇討に対する皮肉が二重写しになっているように見えるものの、実は皮肉でも何でもなく素直にこれが書きたかったんじゃないかと勘ぐってしまう。
※しかしまあ『真珠夫人』がヒットしちゃいましたね。菊池寛はこういうのを予測していたんだろうなあ。本来であればとんちんかんな予測のはずなのだが、予言にしてしまうところが菊池寛のパワーか。
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