『愛国殺人』アガサ・クリスティ/加島祥造訳(ハヤカワ文庫)★★★☆☆

 憂鬱な歯医者での治療を終えてひと息ついたポアロの許に、当の歯医者が自殺したとの電話が入った。しかし、なんの悩みもなさそうな彼に、自殺に徴候などまったくなかった。これは巧妙に仕掛けられた殺人なのか? マザー・グースの調べに乗って起こる連続殺人の果てに、灰色の脳細胞ポアロが追い詰めたものとは。
 

 わたしはクリスティの魅力を、ミステリではなく噂話・世間話・ワイドショー的なところに感じているので、どちらかといえば非ポワロものの方が好みではある。だけど瀬戸川猛資氏や北村薫氏が誉めてたんで読んでみた。

 やっぱ好みとは合わないな。瀬戸川氏が誉めるのもわかる。地味ではあるけどミステリとしてカチッとはまってるというか。〈愛国殺人〉というテーマの扱い方も素晴らしい。単なるミステリ的仕掛けにとどまらず、社会的・人間的スケールの話に直結しているのも胸を突く。

 日本の新本格なんかでは、無理に社会性を接ぎ木したような話が多いけれど、本書はほんとうに無理がない。これは国民性というよりも、戦争のような切実な問題を体験しているかどうかに原因があるのかもしれないな。ディクスン『読者よ欺かるるなかれ』や横溝正史『獄門島』とかを思い合わせるとね。

 ○○だと思われていたことがくるっとひっくり返る真相も見事。こういう大きな話って好きなはずなんだけど、いかんせん地味すぎる。

 ポワロが出ずっぱりだというのも、わたしにとってはマイナスだ。だってポワロって探偵として魅力ないんだもの。。。(T.T ) 善人ヘイスティングズとか、おばちゃんミス・レモンとか、そこらへんにいそうな村人とか恋人とか、そういう愛すべき人たちこそクリスティの魅力なのに。ポワロが好きな人なら言うことないと思う。

 『One, Two, Buckle My Shoe』Agatha Christie,1940年。
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