『ぼくと未来屋の夏』はやみねかおる(講談社ミステリーランド)★★★★★

 もともとジュヴナイルの人だけに、ようやくミステリーランドに子ども向けらしい子ども向け作品が登場です。『メフィスト』で読んだ虹北商店街はそれこそ子どもだましだったので半分不安、半分期待だったのですが。「未来屋」という発想ですでに勝負あり。

 思えばこういう純粋な児童文学自体が日本には少ないのだ。残念ながら『トム・ソーヤー』も『エミールと探偵たち』も『トムは真夜中の庭で』も生まれないお国柄。好奇心旺盛な主役の子ども。怪しげなくせに思わぬ能力を見せる隣人(というか同居人)。そして発生する事件。定番と言えば定番なのだが、つぼを押さえたわくわくする作り。

 そして当然のごとく、現役小学校教師である著者描くところの子どもは、全然うそくさくないのである。

 いいな。子どものころに読みたかったなあ、と思う。ホームズなんかよりもゼンゼンはまってたかもしれない。

 だけど子どもが読んでも宝物の正体がわかるのかな、という素朴な疑問も感じました。サン・ジェルマンなんて知らないだろう。ヒントにしてはちょっとイジワル。でもまあ八百比丘尼じゃ露骨すぎるし(子どもが知らない点ではサン・ジェルマンと大差ないし)。カリオストロなんかだとピントがぼやけちゃうのかな(きっとほとんどの子は『ルパン三世』を連想してしまうだろう)。

 わからないことがあったら自分で調べなさい、という、現役の教師である著者から子供たちに向けたメッセージなのだと思う。こういう先生に教わっている子どもは、辞書の引けない人間、言われたことしかできない人間、には育たないのだろうなと期待したい。

 「未来を知りたくないかい?」 6年生の夏休み前日、作家を夢見る風太は、未来を100円で売る「未来屋」猫柳さんに呼びとめられた。二人の自由研究の先に、どんな結果が待ちうけているのか……。
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ぼくと未来屋の夏
はやみね かおる著
講談社 (2003.10)
ISBN : 4062705664
価格 : ¥2,100
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