ブランドといえば――?
――容疑者一同が集まってがやがやと噂話やら議論に明け暮れ、とんでもないトリックがあり、二転三転の果てに瑕瑾のない論理が展開……そんなブランドの特徴を過不足なく備えた代表作が本書です。
ところがこの本がブランドによる本格ミステリの傑作かというと、そうとも言い切れないのが困りもの。衝撃的なのは衝撃的なのですが……。コックリル警部は休暇でサン・ホアン・エル・ピラータという架空の島国にやって来ます。古くさい特異な習俗を残したこの島国の、警察署長をはじめとした国民の奇異(にも思える)言動や、コックリルとのやりとりなど、いかにも架空の世界らしく面白いものです。
しかしそこで描かれる事件はというと、冒頭にも書いた通り、今までどおりのブランド印。
『緑は危険』や『ジェゼベルの死』は、背景が病院や舞台でなくては成立し得ないお話でした。それを考えると、本書が架空の国を背景としているのも、やはりあの《はなれわざ》を成立させるための装置だったのかなぁとは感じます。
ただし、続編『ゆがんだ光輪』ほど手際がよくなかったのか、遊び心が足りなかったのか――。本書は、架空の国という名の〈現実世界〉において、〈架空世界〉の論理による《はなれわざ》を行ったような、ちぐはぐな印象を与えるものとなってしまいました。
既にブランドを読んで面白いと思った方なら、きっと本書も楽しまれることでしょう。けれど初めてブランドを読む人には、まずは『ジェゼベルの死』や『招かれざる客たちのビュッフェ』をおすすめします。
休暇をすごすため、イタリア周遊ツアーに参加したスコットランド・ヤードの名警部コックリル。だが、事件が彼を放っておかなかった。景勝で知られる孤島で一行のひとりが何者かに殺された。地元警察の捜査に不安を感じたコックリルは自ら調査に乗り出すが、容疑者であるツアーの面々は、女性推理作家やデザイナー、隻腕の元ピアニストなど一癖ある連中ばかり……ミステリ史上に輝く大胆なトリックで名高い、著者の代表作。
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