「The Higgler」A. E. Coppard

 コッパードの代表作の一つ。ということで期待して読んだんだけれど、ちょっとイメージと違いました。わりと普通の恋愛小説。

 行商人のウィトロウは、あるとき荒野の一軒家を訪れた。そこには美しい母娘が住んでいた。娘に魅かれたウィトロウは、婚約者のある身にもかかわらず、週に一度はその家を訪れるようになったのだった……。

 死化粧を施すシーンが幻想的。へんてこなおばあちゃん夫婦コンビも強烈な印象を残す。

 コッパードが自選短篇集の巻頭に持ってきているくらいだから、かなりお気に入りの自信作だったのだと思う。純愛小説ですね。

 蜂退治のシーンやさくらんぼ狩りのシーンは、「アラベスク――鼠」の回想シーンにも似た爽やかな印象を与える。ウィトロウの親戚が集まってがやがや騒ぐシーンの何気ない天気予報――これも「アラベスク」に出てくる農夫の会話っぽくもある半面、何やら『マクベス』の魔女の予言めいた趣もあった。そして最後。これは一種の通過儀礼なんだろうな、と思いつつも釈然としない。読み返してみると新たな発見があるかも★★★。
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