『北村薫のミステリー館』

 『謎のギャラリー』の続編。ということで、以前から『謎ギャラ』はじめいろいろな媒体で触れていた作品がいくつかまとめられています。北村氏の紹介を読んで以来、読んでみたかったんだけど探す気力のなかった人はこれでまとめて読めるわけです。そういえば〈リドル・ストーリー〉「その木戸を通って」も『日本怪奇小説傑作集』に収録されましたね。

 「盗作の裏側」「神かくし」「二世の契り」などなど。「フレイザー夫人の消失」は『ミステリ十二か月』でというよりも『続幻影城』か何かで読んだのが記憶に残っていた。

 ジャン・フェリーの「虎紳士」は傑作だけど、当方幻想文学好きゆえに、ここで紹介されなくともいずれ別のところで読む機会があったかもしれない。そーゆー意味では岸本佐知子夜枕合戦/枕の中の行軍」が掘り出し物。本書がなければ出会えなかった傑作です。肌触りは全然違うんだけど、内田百けんみたい。夢と現実のあわいとか人を食ったようなユーモアとか。

 読む機会がないといえば奥泉光」もそう。作品の質とは別に好き嫌いがあってどうしても苦手な作家なのだ。でもやっぱり読むと傑作なんだよなァ。山奥で変な宗教とかいうと麻耶雄嵩『鴉』とか京極夏彦とか連想してしまうんだけれど、これは三島的というかなんつーか、健全(?)な鍛錬。実際『剣』なのだそうだ。いや、でも麻耶の『あいにくの雨で』も連想してしまった。少年たちの駆け引きという点で。ただワタシが麻耶好きなだけですか。

 別の意味で読む機会がないのが塚本邦雄。全集高いんですよ。文庫なのにちゃんと旧字旧かななのが嬉しい。「作られたもの」かぁ。北村氏は「歌枕」と表現していたけれど要は「型」ということでしょう。それをマイナスだと信じる方もいらっしゃるということですね。「作られたもの」といえば本格ミステリなどは作られたものの極北みたいなもの。でもやっぱりそういう形でしか表現でき得ないものというのがあるわけで。

 塚本邦雄全集のたった(?)半額で手に入るのが稲垣足穂全集。本書収録の一篇だけで果たして足穂の魅力が伝わるのかどうか心許ないところです。全集といわずとも、このジャンルの作家にしては比較的文庫にめぐまれているのでほかの作品も読んでみることをおすすめします。〈コメット〉なる称号にふさわしい掌編を残した作家です。

 岸本佐知子を紹介してくれた功績だけでも★★★★★。
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