『妖怪文藝〈巻之壱〉 モノノケ大合戦』東雅夫・編

 最初に発売案内を見たときは、「妖怪文藝」とはなんぞや? と思いましたが、つまるところ「妖怪小説・エッセイ等」のアンソロジーです。

「月は沈みぬ」南條範夫――これぞモノノケ大合戦。忍法帳のように、異能の者たちがそれぞれの特殊能力を尽くして戦う娯楽絵巻。軽いけど各妖怪の特徴をきちんと捉えているのがポイント。

「河童将軍」村上元三――バローズの火星シリーズみたい。「河童の大元帥カーター」。

「妖恋魔譚」藤原審爾――サービス精神旺盛。しかし詰め込みすぎでそれが裏目に。要は一匹の妖怪を倒すために、入れかわりたちかわり戦う物語。

「狐の生肝」石川淳――さすが石川淳、ではあるのだが、『火の鳥 太陽編』的とでもいうべきラストは納得いかん(〈モノノケ大合戦〉の一編として読んでしまうと)。

「荒譚」稲垣足穂――第一話、稲生物怪録。第二話、灰屋のおっさんの話。第三話、まとめ。今まで読んだ稲生物怪録の話の中では一番おもしろくはあった。ここまでが特集「モノノケ大合戦」。

「牛を殺すこと」入澤康夫――ここからは「文藝妖怪名鑑」。劈頭に詩を掲げるのはよくあることだが、よりによって「件《くだん》」というマイナーな妖怪を選ぶのがマニアック。そもそもこのアンソロジーの企画自体がマニアックだからいいのかな。

「川姫」土屋北彦――民話の聞き書き。「キャラキャラ笑う」という表現が一読忘れがたい。

「小豆洗い」龍膽寺旻――日夏耿之介主宰の「サバト」掲載作だけのことはある傑作。雰囲気が石川淳っぽい。妖怪縁起譚。

「覚海上人天狗になる事」谷崎潤一郎――漢文の引用が半ば以上を占める。いくら何でも……。

ぬらりひょん水木しげる――見る目さえ持っていれば現代でも妖怪を見ることはできるという好個の例。妖怪を見るには霊感がなくともよいのです。

「からかさ神」小田仁三郎――掌編《コント》的妖怪譚。なかなかに味のある。

「すなかけばば」別役実――『もののけづくし』より。笑いとことば遊びと批評精神を駆使した〈づくし〉シリーズの特徴がよく出ている一編だと思います。

轆轤首」石川鴻斎/小倉斉・訳――『夜窓奇談』より。漢文ゆえに敷居の高かった古典的名著の現代語訳が先ごろ出版されたとは言っても、価格的にはまだまだ敷居が高い。アンソロジーに収録してくれるのはありがたい。

「雪女」今江祥智――創作民話風ファンタジーとはむべなるかな。妖怪の特徴を殺したり作りかえたりせずに、物語を創作するというのは意外と難しいと思うのだが、これはよくできていると思う。

猩猩」野上豊一郎・編――能(謡曲)台本。台詞だけなのでかなりそっけない。「妖怪がいたよ」「信じてくれてありがとう。お礼だよ」というだけの話になってしまった。当たり前だがやはり「観るもの」ということなのでしょう。

豆腐小僧京極夏彦――狂言台本。うまい。狂言は「附子」しか知らないのに、あーわかるわかる、って感じ。「野暮と化物は箱根から先(=江戸っ子は粋なやつしかいねぇのよ)」という江戸語も知ることができてお得。

 全体として見ると、やはり短篇で「大合戦」というのが無理あります。石川淳稲垣足穂の作品を「大合戦」の方に入れるのはやはりこじつけ、個々の作品として楽しみましょう。けっこう妖怪は好きな方なんだけれど、既読は「すなかけばば」しかなかったのでうれしい。
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妖怪文芸 巻之1
東 雅夫編
小学館 (2005.9)
ISBN : 4094028374
価格 : ¥650
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