『血と薔薇 エロティシズムと残酷の綜合研究誌 コレクション1』澁澤龍彦責任編集 ★★★☆☆

 豪華執筆陣による幻の雑誌が文庫化! ――って、実は文庫化されるまで存在も知らなかったんですが、澁澤編集ってことで読んでみました。

 執筆陣が執筆陣なだけに、ひとつひとつは素晴らしいのですが、全体としてのまとまりに欠けているように感じました。雑誌という性質上しかたのないことなのでしょうけれど。

血と薔薇」宣言(編集者一同)――「倒錯とか退行とかいった言葉も適当ではない」、「エロティシズムの領域に関する一切の事象を偏見なしに正面から取り上げる」、「艶笑的、風流滑稽的、猥談的、くすぐり的エロティシズムの一切を排除」等々、今読んでも新鮮な部分もあると思う。

「特集I 男の死」――グラビア写真。巻末の原本目次を見ると、三島由紀夫モデル・篠山紀信撮影のものがあったらしいが、残念ながら本文庫には収録されていない。モデルが澁澤だったり土方巽だったりと、ミーハー的にも楽しめる。

「All Japanese are perverse」三島由紀夫――三島のエッセイを読むと、なぜか寺山修司のエッセイを思い出す。アウトローな感じがするからだろうか? 『不道徳教育講座』も『書を捨てよ、町へ出よう』もどちらもアンチ教科書の教科書だからだろうか?

アフロディテ=ウラニア――感想私録――」稲垣足穂――足穂のほかのA感覚V感覚のエッセイとあまり違わないと思う。少年愛先にありき、な。

血と薔薇コレクションI」ポール・デルヴォー――ポール・デルヴォーの絵画とその解説。

「一枚の魔女の図に」埴谷雄高――この図版は何なのだろう? 本文と関係ある、のかな?

「東洋のエロスI 特に中近東を中心に」大場正史――『千夜一夜物語』訳者の大場氏による、中近東のエロスに関するエッセイ。この種の文章は、今でも類書があまりなさそうだから価値高し。しかしこれではイスラム教徒はみんなドスケベみたいではないか。

「吸血鬼幻想」種村季弘――まさか吸血鬼を知らない人はいないと思うけれど、映画とか漫画とかではなく、ちゃんとした伝承は、というと、知らない人の方が多いと思う。そんなときこそ面白くてためになる種村エッセイ。

「特集II 吸血鬼」――上記種村エッセイと、亀山巌野中ユリ堀内誠一による写真・絵画。

「特集IV オナニー機械」――金子国義横尾忠則らによる作品および種村季弘によるエッセイ。

「悦楽園園丁辞典1〜3」塚本邦雄――「蘂」とか「獣」とかいう言葉に関するエッセイ。はじめのうちこそ雑誌のテーマに沿ったような内容だったが、だんだんただの塚本作品になってくる。テーマにもよるんでしょうけどね。「謎」とか「香」なんて完全に塚本の一人舞台。悦楽≒エロティシズム。

「膣内楽1〜3」加藤郁乎――自我との対話によるユートピアディストピア文学。セックスには性器と脳だけあればよい、という意味においてこれも立派なエロティシズム文学。

アポリネールの猥褻小説――『一千一万の鞭』」飯島耕一――『一千一万の鞭』が未訳だったころ(?)に書かれたあらすじ紹介。

ムッシュー・ニコラ」レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ/生田耕作――サド、ラクロと並ぶ「破廉恥三人組」の一人による自伝小説からの抜粋。性遍歴。

「沈黙といけにえ」宗谷真爾――沈黙といけにえに焦点を当てた短めの宗教論。宗教論の形を取った物語かもしれない。ちょっと幻想的でよい。

「ダフニスとクロエ」――男女の写真。撮影は立木義浩

「インド古詩 シュリンガーラ・ティカラ」松山俊太郎訳――珍しい作品ではあるが、あまりにも試訳すぎる。読物というより研究者向けである。「研究誌」に発表しているのだから間違いではないが。

「大初に足ありき」長沢節――タイトルからわかるとおりの足フェチの物語である。これが昭和の私小説っぽい感じ(福永武彦? 違うか。)で綴られていくのである。

「処女である男たち」小川徹――足穂のエッセイと同じくらい乱暴な(あるいは直感による本能的な)論の運び方。AだVだ。男だ女だ。

「特集III 苦痛と快楽」「拷問について」澁澤龍彦――「苦痛と快楽の相似」「拷問の動機分類」「美術にあらわれた拷問の考察」の三点から考察しているが、あまりにも簡潔にまとめすぎた嫌いは否めない。

「斜めになった狭い道を歩いていると1〜3」植草甚一――第一回目こそ、作品についてのJ・J節全開の名エッセイだったのだが、二回目と三回目はホモセクシュアルの話になってしまった。雑誌のテーマからすれば二・三回目こそがふさわしいのかもしれない。
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血と薔薇 コレクション1
澁澤 龍彦責任編集
河出書房新社河出文庫) (2005.10)
ISBN : 4309407633
価格 : ¥1,260
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