『四人の申し分なき重罪人』チェスタトン(国書刊行会)★★★☆☆

 〈誤解された男のクラブ〉をめぐる四つの事件。とはいえ、他のミステリ短編集のようにシリーズを通した探偵役がいるわけでもないし、〈誤解された犯罪者〉という共通点&プロローグとエピローグはあるものの、独立した四つの中篇が収録されていると思っていいかもしれない。たとえば「ガブリエル・ゲイルの犯罪」なんかも〈誤解された男〉の物語と言っていいと思うが、それと比べると本書の四編は凄みに欠けるのは否めない。

「新聞記者のプロローグ」――このマリラック伯爵がエピローグにからんでくると思ったのだけれど、まったく関係なかった。〈誤解された男〉という枕でした。

「穏和な殺人者」――エジプトの隣国ポリビアはイギリスの植民地だ。暗殺された総督に代わる新総督が赴任した。総督の姪バーバラは反英を示唆する怪しげな男に遭遇。後日、総督が狙撃された。

 絞首刑にされる男を助けるために、その男を絞首刑にする――という冗談に代表されるような警句と逆接はチェスタトンらしくて楽しめる。中篇ということもあって思想・哲学・雰囲気と同じくらいに物語にも筆を費やしている。

「頼もしい藪医者」――詩人のウインドラッシュは一本の樹を偏愛し、何人も決して庭には入らせなかった。道を歩いていたウインドラッシュに殴りかかったジャドスン医師。その日から二人の奇妙な友情が始まった。庭に入り込んだジャドスンが見たものは……。

 これが一番われわれが知っているチェスタトンらしい。幻想的な雰囲気とか学問的議論とか。そのおかげで、道で殴りかかったというとてつもなく大きな伏線をまったく意識させないことに成功している。

「不注意な泥棒」――ナドウェイ氏の秘書ミリセント嬢の目の前に泥棒が立っていた。ナドウェイが勘当した息子アランだった。手にはブローチ。悲鳴をあげられるとブローチを置いて一目散に逃げ出した。同日ほかの家にも泥棒が入り、アランの葉巻入れが落ちていた。

 探偵の聞き込みのシーンとか裁判のシーンとか、さらには事件の構図が明らかになったあとで動機が明らかにされるシーンが続くので、全体的に冗長な印象を与える。逆接に関しても〈誤解された犯罪者〉に関しても思想に関してもチェスタトンのなかでは平凡な部類に入る。

「忠義な反逆者」――バルカン半島にあるパヴォニア国。四人の男の怪しげな隠れ家、不穏な行動。革命の陰謀なのだろうか。

 大がかりなホラ話。こういう底抜けのトリックをさらりと使えるところがチェスタトン。意外性というより肩すかしの感がなくもないが。しかし本書収録作は全体を通して魅力的な謎や語りに乏しい。探偵役じゃなくてもいいから、狂言回し的な〈変人〉がいてくれると物語にメリハリがつくのだが。

「新聞記者のエピローグ」――こうして一つの物語が完結したのであります。
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四人の申し分なき重罪人
チェスタトン西崎憲
国書刊行会 (2001.8)
ISBN : 4-336-04241-1
価格 : ¥2,625
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