『英国人の血』ジェイムズ・マクルーア(ポケミス1403)★★★☆☆

 銃を持った“巨人”がトレッカースブルグを徘徊している! 連続して起きた二件の狙撃事件の犯人は人間の限界を超えた力の持ち主としか考えられなかった。二件の被害者には関係があるのか、それとも無差別殺人か? クレイマー警部補がぶつかった一番の難事件の謎は深まる……。

 看板に偽りあり。乱歩の『天空の魔人』[bk1amazon]を彷彿とさせるとかなんとか(っていうのは瀬戸川さんとか小山さんとかが言っているだけだけど)、でも「巨人」はないよな。六フィート三、四インチって……。たった二メートルだよ! 普通の人間じゃん! せいぜい言って「大男」だよ。馬場でいいじゃん。犯人馬場じゃん。

 で、肝心の内容は、というと。熱血な上司とクールな部下という設定はよくあるけれど、たとえば部下が上司の熱さを小馬鹿にするとか、上司が部下の無関心ぶりを嘆くとか、そういった世代間の云々というありがちな問題提起はなくて、仲よくやっているのが楽しい。で、どっちも名探偵ではないからおもしろい。でも南アフリカの警察って現実でもこんなふうに勘が先にありきなのかな? クレイマーにしろド・クラークにしろ、勘を頼りに突っ走って失敗してるし。似ているのってなんだろう? ウルフとアーチーは仲良しぶりが似てはいるが、あれは完全な名探偵と助手だからなー。トミーとタペンスかな? タペンスがクールになったらこんな感じかも。

 単純に読んで面白いという意味では、シリーズ最高傑作は『暑いクリスマス』だと思うけれども、あれはほとんどクレイマー警部補の一人舞台で、ゾンディとの名コンビぶりもあまり見られないし、〈警察小説〉の最高傑作というのもちょっと違う。シリーズの面白さを感じるには、やはりクレイマー&ゾンディのやりとりが楽しめるこういう作品もよいかも。後味がよいとはいえない作品ではあるけれど。

英国人の血
ジェイムズ・マクルーア著 / 斎藤 数衛訳
早川書房 (1982.11)
ISBN :
価格 : ¥998
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