ニューヨークの怪盗グリフィンに、メトロポリタン美術館が所蔵する贋作のゴッホの自画像を盗んでほしいという依頼が舞いこんだ。「あるべきものを、あるべき場所に」が信条のグリフィンがとった大胆不敵な行動とは!
法月氏は後期クイーン論だ何だと難解なイメージがあるのだけれど、その実ものすごく柔軟でひきだしが多い。巻末の参考文献だけを見ると、何だか片手間に書いてるかのような印象を受けてしまうほどにいろんなところからいろんなものを取りこんで、必要に応じて取り出してしまうのである。
で、本書はなんと怪盗もの。参考文献にもあがっている『怪盗ニック』や『泥棒バーニー』シリーズのように軽快に、そして表紙イラストのグリフィンを見れば一目瞭然手塚治虫のケン一ものやロックホームもののように初々しい。
パッと見の印象は、謎解きミステリというよりも読んで楽しいアイデアミステリといった感じなのだけれど、土偶の入れ換えに関するロジックなどは、なかなかどうして筋金入りです。ものすごく凝った細工の玩具の、中身は鉄筋、てな感じ。
怪盗もの〜スパイもの〜本格ミステリ、と一冊で三粒たのしめます。
ミステリーランドの中でもっとも子どもを意識しているようでもあり、この凝りすぎの感がある凝った作りは完全に大人を意識しているようでもあり。
綾辻・法月両氏とも、な〜んかすらすら楽しく読んでも面白いのだけれど、読み終えてみたら実は本格だった、という作りですね。それでも綾辻氏の方はまだしも真っ向勝負なのですが、法月氏の本書はサービスあるいは韜晦がおびただしい。
子どもはともかく、大人の法月ファンはどう読むんだろう。
企画人の宇山氏は、この〈ミステリーランド〉について「子ども向けにといって特にタブーをもうけない」とかいうようなことをおっしゃっていましたが、それは「エグい作品を書け」という意味ではなくて、「エグくても気にするな」というような意味だと思うんだけど、どうも勘違いしているのか、わざとエグい作品を書いている人が多すぎる気がします。そんな中で、本書は珍しく爽快な作品でした。
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