『アムネジア』稲生平太郎(角川書店)★★★★☆

 僕が巻き込まれた、数千億もの金が動くという闇金融の世界。その暗がりから朧に立ち現れてくる、チョコレート・ケーキ、かみのけ座、殺人、奇妙な機械……触れてはいけないものによって優しく、そして残酷に浸食されてゆく現実の中で、僕がついに見いだす“本当の物語”とは? 『アクアリウムの夜』[bk1amazon]の鬼才が15年ぶりに放つ、究極のミステリ!(帯あらすじより)

 はじめのうちこそノワールみたいでまともだったのだけれど、だんだん気持ち悪くなってくる。幻想的、とか、酔う、とかを通り越して気持ち悪い。いや〜山尾悠子を初めて読んだときもそうだったけど、感動した、とか、怖かった、とかいう自分がこれまで経験した感覚では処理しきれない感覚を覚えて、すごく居心地が悪いんだけど病みつきになる、という読後感をひさしぶりに味わいました。

 すべては妄想だった、で片づけるのが一番すっきりするし、安心できるんだけどなぁ。

 自分が宇宙人だ(と思い込んでいる)という記憶を失くした(と思い込んでいる)(精神病の)男が、本来の記憶を取り戻す(と思い込んでいる)物語、だということでいいのだろうか。何度も読み返して解き明かしたくなる(あるいはふたたび迷宮に誘われたくなる)作品です。すっきりした解明を求めている読者にはおすすめできませんが。
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