『ポルノ惑星のサルモネラ人間 自選グロテスク傑作集』筒井康隆(新潮文庫)★★★★☆

「ポルノ惑星のサルモネラ人間」★★★★★
 ――地球から学術調査隊が訪れたポルノ惑星で、美人隊員の島崎博士が妊娠した! 原因は妖草ゴケハラミ。その処置を原住民に聞き出しに向かったおれが見た、奇怪な動植物の数々。

 これぞ筒井康隆!なハチャメチャワールド。ことば遊びにインチキ科学に何でもありのストーリー。頭と感覚を偏ることなく両方とも全開した大傑作です。

「妻四態」★★★★☆
 ――冬眠エーッ冬眠だってお前冬眠するの参ったなあどうして冬眠なんかするの結婚前に言っといてくれなきゃ困るじゃないかよう冬眠だなんて。

 これだけわやくちゃやっときながら、最後には日常に戻る(というか不思議さに対し免疫が出来てしまってツッコミ所が変化してくる)のが面白い。てゆーか「結婚前に言っといてくれなきゃ」って時点でツッコミ所がすでにずれてるけど。

「歩くとき」★★★☆☆
 ――歩行は大多数の人間が足を用いて行うが、左右二脚の足のどちらを最初前に出すかは各個人の任意となる。血液の流れが速くなり、神経が刺激され、大脳新皮質は愛欲の対象をさまざまに思い浮かべる。早く来て。ぼくを助けて。ママ。ママ。

 歩くというただそれだけの行為からとめどなくあふれる逸脱した妄想。酔っぱらったトリストラム・シャンディが書きそうな物語。筒井康隆のことだから、きっと書かれている内容は解剖学的に正しいのだと思う。そこがなんともニンマリ(^^)。

「座右の駅」★★★★★
 ――右肘の少しかなたに電車が着いた。十五、六人が降り立った。「ええと。みなさんのおられますところ、ここが小説家筒井康隆の書斎の机の上であります」

 メビウスの輪型とか円環状の小説というのはいくつもあって、でもたいていはちょっと無理のある作り物感がぬぐえないのだけれど、これぞほんとのループ型小説だと思う。こういうのと比べてしまうと、同じ夢の話でも『阿修羅ガール』の第二部「崖」は面白くなかったなぁと今さらながら改めて感じてしまいます。後ろ向きな感想だ(−−;。もといこの作品が面白かったなぁと感じるのです。

「イチゴの日」★★★★☆
 ――テレビ局の企画会議で、醜女を美人だといってアイドルに祭り上げようという一大プロジェクトが発足した。

 “B級アイドル”全盛時代の今だからこそ、より楽しめる!? 奇怪で気味が悪いという意味でも悪趣味という意味でもグロテスク。

「偽魔王」★★★☆☆
 ――純は大河内君に突き落とされて死んだ。ヤクザの猿田は組長の遠藤に殺された。恨みを持って死んだ二人を悪魔たちがスカウトすると、乱暴者の猿田は自ら魔王を名乗って悪逆のかぎりを尽くし始めた。

 スプラッタに徹したストーリーと、投げ遣りなんだか計算なんだかわからないラスト。これはもうとにかくスプラッタありきの作品です。テレビゲームで呼び出してもらう悪魔の悲哀が笑える。

「カンチョレ族の繁栄」★★★☆☆
 ――ニューギニア出張が決まった大日本帝国男児のおれは、妻と息子と通訳と二人の土人とともに、勤務先であるカンチョレ族の部落へと向かっているところだ。

 途中までは、描かれている動植物を読んで“こんなの本当にいるのかよ!? 怖ぇな〜”とか思っていたのだけれど、見事にやられました(笑)。わざわざ「大日本帝国」を登場させつつ、「カンチョレ族の“繁栄”」について筆が割かれてもいる以上、痛烈な風刺なんでしょうな。ま、個人的には得体の知れない生物や現地人のけったいな習慣を楽しみました。
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ポルノ惑星のサルモネラ人間
筒井 康隆著
新潮社 (2005.8)
ISBN : 4101171475
価格 : ¥540
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