『地球の静止する日 SF映画原作傑作選』中村融編(創元SF文庫)★★★★★

「趣味の問題」レイ・ブラッドベリ中村融(A Matter of Taste,Ray Bradbury)★★★★☆
 ――銀色の船が舞い降りてきた。われわれが友好的な態度で集まっているのに、誰も出てこようとはしない。われわれと性質が異なっているせいで恐れを成しているのかもしれない。

『イット・ケイム・フロム・アウタースペース』原作。

 ファースト・コンタクトを異星人の側から描いた小品。あんましブラッドベリぽくない、ブラッドベリにしては普通のSFかもしれない。人間側の恐怖よりも異星人側の戸惑いを印象に残しながらも、最後の最後に恐怖に集約させるのがうまい。
 

「ロト」ウォード・ムーア/浅倉久志(Lot,Ward Moore)★★★★☆
 ――ジダン氏は綿密に計画を立ててワゴンで北へ向かった。妻のモリーは事態がわかっていない。あきれた馬鹿者だ。人類が生き残るかどうかというときに、家のことしか考えられない。

『性本能と原爆戦』原作。

 ジダン氏の信念(中村融氏の言葉を借りるなら「妄執」)と途切れ途切れのラジオ放送、あとは周囲の動静だけで終末を描いた異色作。日本人にとってはのんきすぎるモリーも他人事ではない。ジダン氏の言動は妄執といえども、感情ではなく綿密な計画に裏打ちされているところが、普通の独善的な人物造形とは異なる。
 

「殺人ブルドーザー」シオドア・スタージョン市田泉訳(Killdozer,Theodore Sturgeon)★★★★★
 ――人類以前に洪水があり、洪水以前に一つの種族があった。この種族とまた別の種族のあいだに戦争が起こった。その種族は科学の事故によって機械の中に産み落とされた。そして今……。

『殺人ブルドーザー』原作。

 アイデアだけ見れば荒唐無稽と言われかねない無茶苦茶な設定なのに手に汗握るサスペンスになってるところがさすがスタージョン。映画『トレマーズ』みたいな話。幾多の名作だって「怪獣VS人間」とか「宇宙人VS人間」とか「悪魔VS人間」とだけ書いてしまえば、笑える話ではありませんか。「ブルドーザーVS人間」とだけ聞いたら馬鹿馬鹿しいお話ではございますが、これがけっこうガチンコのバトル小説なのです。

 これまで未訳だったのは、ブルドーザーやシャベルカーに関する膨大な専門知識が必要だったからでしょうか。これでもまだところどころ状況がわからなかったりします。クラッチがどうこうギアがどうこうならともかく、専門用語が乱れ飛び始めると何が起こっているのかわからない(^^;

 あー怖かった、あー助かった、(あー笑った)、だけでもじゅうぶん面白いのだけれど、なぜブルドーザーが動き出したか、物語はその後どうなったか、まできちんと描かれている責任感のある小説。
 

「擬態」ドナルド・A・ウォルハイム/中村融訳★★★★★(Mimic,Donald A. Wollheim)
 ――自然というのは不思議なものだ。木の葉そっくりのナナフシがいれば、スズメバチそっくりの蛾もいる……。黒マントの男は変人だった。男がぼくらを無視するので、そのうちぼくらも男をかまわなくなった。

ミミックamazon]原作。

 怪しい隣人ものって大好きだ。『ミステリー・ゾーン』風とでもいうのか、この世には不思議なことがあるのです、的な抑えた語り口がいい。タイトルからいっても男が擬態であるのは見え見えなのだけれど、擬態の様子には虚を突かれました。“変身”とか“怪物”ではなくちゃんと“擬態”なのです。
 

「主人への告別」ハリイ・ベイツ/中野善夫訳(Farewell to the Master,Harry Bates)★★★★☆
 ――突然出現した宇宙船から、神のような男とロボットが現れた。「私はクラートゥです。それから、こちらはヌートです」友好的なのは一目瞭然だった。だが狂信者の銃が男の命を奪った。ロボットは停止し、以来動くことはなかった。だが記者のクリフは目を疑った。撮った写真に写っていたのは、少しだけ前日とは違うロボットの姿だった。

地球の静止する日地球の静止する日]原作。

 相手が何を考えているかわからない、コミュニケーションが取れない、からこそコンタクトは怖くてはらはらするのですが、本篇の場合相手がロボットなので(というか無言なので)謎めいた様子にはいっそうただならぬものがあります。ヌートは目だけ光ったりクリフを肩に乗っけて歩いたりと、どことなく『天空の城ラピュタ』のロボットを彷彿させます。

 クリフは記者のくせに写真を取り損ねたりして読んでいていらいらさせられるんだけれど、そのエピソードがあとあと響くわけでもないのがいらいらさせられ損だった気がして口惜しい。博物館に忍び込んで夜中まで隠れてるという設定が『クローディアの秘密』みたいで、それだけで引き込まれるのでありました。

 結末はよくわからなかった。意外ではあるけれどだからどうなんだというか。タイトルはミスリードにしてもインチキなんじゃないかと初めは思ったけれど、(家来が)主人にさよならするんじゃなくて、(クリフが)あるいは(人類が)“主人”にさよならするということなのですね。
 

「月世界征服」「「月世界征服」撮影始末記」ロバート・A・ハインライン中村融Destination Moon,Robert A. Heinlein)★★☆☆☆
 ――コーリー博士とレッドとジムは、開発した原子力宇宙船で月に行くことにした。圧力から逃れるために水面下で準備を進めていたが、いざ出発というときにエンジニアが急病に。助手のトロウヴを乗せて何とか飛び立ったのだった。

『月世界征服』原作者によるノヴェライズ。

 「撮影始末記」とワンセットのわきあいあいSF。冒頭、状況を説明せずに周囲の言動だけで状況を明らかにしていく手法は、「ロト」と一緒だけれど、「ロト」にあったような緊迫感は本篇にはなくだらだらしてます。人間ドラマも希薄で盛り上がらない。SFや冒険小説としても、実際に月に到着することを除けば、ヴェルヌ『月世界旅行』『月世界へ行く』からさほど進歩してない。そりゃ科学的には進歩してるし、冷戦による政治的な箇所も現代的(というかン十年前的)特徴ではあるけれど。読んでいるあいだは各章につけられたエピグラフがうざったいと思っていたのだが、最後まで読んで納得。
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地球の静止する日
ブラッドベリ〔ほか〕著 / スタージョン〔ほか〕著 / 中村 融編
東京創元社 (2006.3)
ISBN : 4488715028
価格 : ¥1,050
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