『ロング・エンゲージメント』(Un Long Dimanche de Fiancailles,2004,仏)★★★★☆

 ジャン=ピエール・ジュネ監督。オドレイ・トトゥ主演。ジョディ・フォスターもちょい役(とは言えないほど大きな役)で出演。

 第一次大戦中。五人のフランス人兵士が故意に自傷を計ったかどで死刑を宣告された。ドイツ軍の長靴を履いた家具職人バストーシュ、溶接工シ・スー、農夫ブノワ・ノートルダム、“悪魔”アンジュ、若者マネク(ギャスパー・ウリエル)。五人はドイツ軍と塹壕ビンゴとの中間地帯に放り出された。

 恋人マネクの死を信じられないマチルド(オドレイ・トトゥ)は、バストーシュの赤毛の恋人ヴェロニック、バーテンのプチ・ルイ、調達の鬼セレスタン・プー、バストーシュの親友ビスコットの妻エロディ(ジョディ・フォスター)らを訪ね、五人の死の真相を追うのだった。少しずつ明らかになる“ビンゴ”の真相。飛び交うアンジュの恋人ティナ(マリオン・コティヤール)の影。

 セバスチアン・ジャプリゾ『長い日曜日』の映画化。と聞くとサスペンス・ミステリを期待するかもしれないけれど、サスペンスとしてはとてもまったりのんびりしていて、スリルは感じられません。『アメリ』の監督&女優コンビによる再タッグだと思った方がよいでしょう。監督は夢見る(女の)子が好きなんだね。夢といえば『ロスト・チルドレン』は全編夢の中みたいな映画だったし。

 のんびりまったりしているように見えてその実、戦場のシーンは、そこらへんの戦争映画なんかよりもよほど戦場の残酷さを浮き彫りにしていました。戦争映画だとどうしてもシリアスになってしまうから。人間ドラマになってしまう。でも本当の戦場はきっと本篇みたいに、人間が物のようにぽんぽん扱われているのだろうな、と感じました。マイペースに描いているから逆に怖い。

 それぞれの人生を描くオムニバス短篇を集めた連作長篇だと思えばテンポのゆるさも気にならない。一人一人に会って一つずつ可能性を消去していくミステリというよりは、散りばめられたエピソードと手がかりを順不同に拾って歩く――オドレイ・トトゥが目の前に広げられたトランプ・カードを手当たり次第にめくっていって、最後に残ったカードが真相だったというような。

 マチルドとマネクの出会いとか、バストーシュとビスコットの不仲とか、前線の隊長の理不尽さとか、中間地帯に生えた木にMMM(Manech aime Mathilde)の文字を掘るマネクと上空を飛行するドイツ軍飛行機とか、飛行船工場の爆撃とか、マチルドが駅の伝言板で暗号を解いたりとか、印象的なシーンやエピソードが羅列されて、ジャン=ピエール・ジュネのファンならずっと浸ってられると思う。マチルドがチューバを吹くシーンが個人的には好き。チューバを吹くのは「救難の警笛」に似ている音だからだそうですが、どうしてもブラッドベリ「霧笛」を連想してしまう。

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